『偶然の女』(ノン・ポシェット、1987)という文庫本に収録されているらしいけれど、ブック○フなどで探してみても見つからず。いま手もとにあるのは、図書館から借りてきた、山前譲編『さらに不安の闇へ 小説推理傑作選』(双葉社、1998)というソフトカバーの単行本。その8篇中の2篇目。初出というか掲載誌は、もちろん『小説推理』で、その昭和61年(1986年)7月とのこと。※以下ネタバレ注意です、毎度すみません。全体的な感想というかは、短篇小説なのにすごく伏線がはられていて、推理小説としてけっこう面白かったです。

『なんでも鑑定団』ならいくらの値段がつくのやら、とりあえず茶碗が砕ける。――茶会を開く予定の進藤早苗(化粧品会社の営業)は、美容院を経営している鵜飼(うがい)高子(金貸しもしているらしい)から借りていた萩焼(はぎやき)の茶碗を、こっそり飼っていた猫に割られてしまう。で、桐の箱に入れていったんは返却したそれを、高子の留守中に泥棒に見せかけて盗んで欲しい、と頼む相手が、大学受験に2度失敗しているらしい予備校生の浜村幹夫(20歳)。早苗のマンションの近くのアパートに下宿していて、レストランで顔をあわせるうちに(言葉を交わすようになり、同郷であることもわかって)親しくなったとのこと。で、なんだかんだで(?)その高子の部屋で彼女の死体が発見される。第一発見者というかは、妻とマンションの管理人をしている滝口孝一郎(70歳、奥さんは68歳)と、高子が雇っていたお手伝いの江間小夜子の2人。管理人の滝口が小説的には“探偵役”になっているというか、老人であるし元警察官でもあるので、事件を担当する松岡刑事からいろいろ話を聞くことができたり、といった感じ。

“浪人生小説”としては、よくある“浪人生が犯人かもしれない”もの、というか。ただ、この小説の場合、読者には浪人生(幹夫)は犯人ではないらしい、みたいなことがすでにわかっている(そこは推理小説、実は…、みたいな話があるかもしれないから、油断(?)はできないけれど)。でも、この小説も別に“浪人生”である必要はないかな。大学生でも専門学校生でもいいだろうし、社会人でもフリーターでもいいと思う。年齢的にも別に20歳でなければならない理由はないと思う。高校生でもいいかもしれない。あと、この小説も何浪なのか、が微妙にわからないな。というのは、事件が起こる(高子が殺された)のが、4月2日だから。幹夫くんは、今年(1月~3月くらい)の大学受験に失敗して2浪なのか、それとも早苗と知り合ったときにすでに2浪だったのか(すなわちいまは3浪なのか)がわからない。この前も書いたような気がするけれど、作中の月が3月、4月の場合、登場人物を漠然と“浪人生”には設定しないほうがいいと思う。より詳しい設定が必要になるから。

幹夫本人目線の箇所もある。――少し引用しておこうか。

 <入ろうかどうしようか、ためらった。窃盗という罪を犯すのだ。万一、捕まりでもすれば、進学の夢も消えるだろう。故郷で役人をしている父の顔に泥を塗り、母を嘆かせるに相違ない。/だが、早苗と約束をしてしまった。彼女のほうが三歳年上だけれど、抱き始めた感情は、もう恋といってもよさそうだ。>(p.87、下段)

ん? 微妙に古い感じがするな。「進学の夢」とか、お父さんが「役人」とか、お母さんを泣かせるとか、東京に出て立身出世…みたいな感じがするからかな。(ちなみに作者は1940年生まれ。)
 

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