角川スニーカー文庫、1991。文庫本だけれど、いま手もとにあるのは図書館で借りてきた本。これは当たりだったというか、けっこう面白かったです。※以下、いつものようにネタバレにはご注意ください。

 <僕は十八歳の予備校生だ。(だったと言った方がいいかもしれない)/ある晩、短い髪が金髪に光る少女、ミチルと出会った。その瞬間、僕の頭の奥深くで、カチリとかすかな音を立てて何かのスイッチが入ったようだった。/そのときは深く考えなかったのだが、これがそれから訪れることになる奇妙な世界への入り口だったのだ……。/独自のファンタジックワールドを紡ぐ著者の、書き下ろし長編!!>(表紙カバーの折り返しより)

明るいファンタジー小説ではないです。9月、「僕」は知り合ったミチルの家の庭で、ナカノ氏――ミチルの家を訪れた彼女と親しいおじさん――とともに自動車事故のようなもの(ちょっと違うか)に巻き込まれて、当初自分が誰かもわからない状態で、奇妙な別の世界に…。で、ある人物から頼みごとをされて(首都にいる病気の大統領に私のこの心臓を届けて欲しい、みたいなことを言われて)、途中でパーティを組んだりして(もとの世界で自殺しているらしいミキと一家心中をしているらしいゴトウさんとともに)その世界を旅することに。――その場所は地獄でも煉獄でもない、とのことだけれど、「僕」はいわば“地獄めぐり”のようなことをさせられている。途中、文字通り地獄にも落ちているし。

(だからというか、意外と梨木香歩の『裏庭』っぽいかもしれないな。あと、チェシャ猫のような猫が出てきたりとか、元の世界を夢に見たりとか、題名が思い出せないけれど、式貴士の何か短篇SF小説もばくぜんと思い出したりした。そういえば「オドラデク」ってなんだっけ? フランツ・カフカ……じゃなくて日本でいえば座敷わらしみたいなもの? あと、“僕小説”だからか、読んでいる間、村上春樹っぽいな、とは何度か思ったです。よくわからないけれど、実はこの作者=リアルなトビヒノ氏はけっこうすごい作家なのかな? うーん…。)

いつものように本題というか、思っていたより浪人がらみの話もあって、その部分はけっこう“浪人生小説”として読める。あ、ただ、最後に(ネタバレしてしまうけれど)「登場人物による「あとがき」」で、「僕」は<たぶん、大学へは行かない。>(p.270)と言っている。――プロフィール的なことも。「僕」(18歳、家族は両親と妹がいるらしい)は地方の高校を卒業して(「日本海ぞいの眠ったような町」から)上京、郊外の大きな団地で暮らす叔父さん(私大の助教授、専門は英文学でルイス・キャロル)夫婦のもとにやっかいになって、原宿の予備校に通っている(ということに小説の最初のほうではなっている)。浪人がらみのことではほかに、団地で2浪の受験生が小学生を殺して自殺している。……ちょっと伏線にもなっているのだけれど、やっぱりちょっと嫌な設定かな。縁起が悪いというか、私なら引っ越すか実家に帰ってしまうかも。予備校もあるし、そうもいかないか。

あと、「僕」は大学生になっている高校のときの同級生2人とお酒を飲んでいる。以前にも書いたけれど、浪人生がやってはいけない行為の筆頭に挙げられるのが、こうした大学生と遊ぶ、ということだよね、たぶん。あとでたいてい後悔することに(涙)。――そんな細かいことではなくてもっと大きなことで、何か書くべきことがあったような…。というか、もう1度ちゃんと読み直したいな、この本。図書館本ではなくて、手に入れたいのだけれど、ブッ○オフとかで探しても見つからないんだよね(涙)。
 

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