読売新聞社、1995/文春文庫、1998。先に言っておくと、今回もたいした感想はないです。手もとにあるのは文庫のほうで、初出は後ろの「解説」(郷原宏)によれば、<「週刊読売」平成7年(1995)1月12日号から7月23日号まで約半年にわたって連載され>ていたとのこと(p.332、数字は原文は漢数字)。作中の年・月もだいたいそれに沿っている感じ。

あまり関係ないけれど、思い出したことがあって。その昔、観光(といえば観光という感じ)で京都を訪れたときに、真夏の暑い日で、私は飲み物ばかり飲んでいたのだけれど、自動販売機でボタンを押して缶コーヒーをごろごろっと買ったら(UCCだったかな)、ラベルというか、缶の表面に「祝!遷都1200年」みたいなことが書いてあって、ちょっとびっくりした覚えがある。そんなこととはつゆ知らずに訪れていた(汗)。歴史オンチの私でも知っている、鳴くよ(794)うぐいす平安京、というやつですね、1200年前は。この小説の作中年はその翌年=1995年で、読むと(小説だから本当のことかどうかわからないけれど)遷都1200年に合わせて新しいホテルが建設されたりもしたそうだ、知らなかったです。今年=2010年は「なんと(710)きれいな平城京」(ま、覚え方はお好きに(汗))奈良が遷都1300年らしいけれど、宿泊施設事情はどうなっているのかな? 景気が悪いどころか最悪ななかで、新しく建てられる財力のあるところはあるのだろうか?(缶コーヒーはわからないけれど、何かセントくんイラスト付き期間限定ご当地食べ物なんかは、すでにたくさんありそうな?)。1995年といえば、もちろん(?)阪神淡路大震災についても少し触れられている。思うに一般に、時代設定をコンテンポラリー(同時代)にして、雑誌とかに小説の連載を始めてしまうと、世の中に何か大きな出来事が起こった場合に、それに触れないわけにいかなくなるよね(あ、特にこの小説の場合、舞台が京都という被災地に近い場所だし)。

 <北野天満宮で舞妓の豆千代が殺されて以来、京都西大路通りの由緒ある神社仏閣で次々と発生する殺人事件。容疑者はホテルオーナー、ゲーム機会社の社長、大学助教授、著名な人形師に服飾評論家など、古都を彩る名士ぞろい。果たして真犯人は? 日本画家の沢木と舞妓の小菊が活躍する傑作長編ミステリー。>(表紙カバーより)

バブル経済・バブル景気はもうはじけている(と作中でも言われている)けれど、けっこうバブリーな? 会話部分に京都弁が多いせいか、お金持ちがたくさん出てくるせいか、たんに私がお座敷や舞妓さんに(というか歴史ある京都じたいにほとんど)無縁なせいか、ちょっと浮遊感がある小説だったような。探偵役の2人(男女)の付き合いも、少し紗がかかっているというか、ちょっとあわあわとしている感じ(あ、手もとの文庫本の文字がちょっと大きめ、というのも、そう感じる原因の1つになっているかもしれない)。舞妓さんと付き合うのは、基本的には私的にであっても、お金がないと駄目な感じだね。…それはともかく。あと、そう、人が次々と殺されていくのに、その2人が直接、死体を目撃することがなくて……上品といえば上品な小説なのかもしれないな(死体と死じたいとどちらがリアルか? といのは愚問かもしれないけれど)。ミステリー的には後半になってやっと面白くなってくるかと思う(「ある秘密」と題された章以降)。ミステリーではない部分に関しては、最近記憶力がめっきり衰えてきたせいか、ザ・京都、お祭りとか伝統行事とかがたくさん出てきて、頭の中でごっちゃになって何が何やら…(涙)。雰囲気だけでなく、小物(?)的にも、花(梅や牡丹)とか人形とか着物とか、女性作家が書いているという感じはとてもする(少女趣味の延長的な大人の女性の趣味というか)。あ、でも、ちょっとびっくり、携帯電話が登場してくる。1995年ではたぶん早いほうだと思う。(何で読んだのか覚えていないし、ほかの作家と間違っているかもしれないけれど、山村美紗って小説に新しい家電を登場させるのが得意なんだっけ?)

本題というか、ネタバレしないように書こうとすると触れにくいのだけれど、えーと、数人の犯人候補のなかから1人、この人が怪しいという人物がわかってくる。で、その人(2浪して東京のA大学の理工学部を卒業という経歴)の約30年前の予備校時代に何やら事件の謎を解く鍵が…、みたいな展開に。日本画家の沢木は、その人物と予備校(R予備校)で一緒だった人に会って話を聞いたりする。――時代によっても予備校のシステムや雰囲気にもよっても違うだろうけれど、例えば1クラス300人くらいの規模になれば、目立たなかった1人の生徒を覚えているクラスメートって、ゼロな可能性は高いよね。これはぜんぜん他人事ではなくて、私の予備校での姿を覚えている人なんて、1人でもいるんだろうか(涙)。

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・『受験戦争殺人時代』(C★NOVELS、1992/中公文庫、1995)

上の『京都西大路通り殺人事件』を読んだあと、拾い読みしたままほったらかしてあったこの小説もついでに読んでみたです。小説としてはどうかと思うけれど、なんていうか“受験小説”としてお薦めといえばお薦めかな。あ、教師目線の小説です。

 <高校三年の夏、女生徒がマンションの屋上から墜死した。受験の悩みか、イジメの問題か。だが担任教師の亜木子は、彼女が妊娠しており、死の直前に男から電話で呼び出されていた事実を知る。受験で歪んだ学校で、男性教師の不審な行動に疑いを抱く亜木子。彼女は、恋人の大手予備校講師田辺とともに、女生徒の死の真相に迫ろうとする……。教師の経験を持ち、受験生の母を体験した著者の力作長篇>(文庫のカバーより)

初出は後ろの「解説」(中島河太郎)によれば、<「中央公論」で、平成3年9月から翌年8月にかけて連載された>とのこと(p.287、数字は原文では漢数字)。※以下、ネタバレ注意です(すみません)。舞台は例によって京都で、主人公の亜木子(苗字は石田)は公立の進学校で3年生の担任をしている。読んでいて教員どうしの関係とか、学校の先生にはなりたくないな、と思ったりした(学校でなくても人の世、どこに行っても似たようなものかもしれないけれど)。浪人生は出てこないけれど、↑で書かれているように、亜木子の大学時代の同級生として、東京の大手予備校の講師=田辺が出てくる。その田辺からプロポーズされたりして、恋愛小説のような感じにもなっている。あと、息子が東大を落ちて浪人中の教師=学年主任の首藤(すどう)も出てくる。その息子も大学(京大)に受かってから一瞬だけ出てくるけれど。ほかに浪人がらみのことでは、別のクラスの生徒が1人東大に落ちて首吊り自殺をしているけれど、ほかの生徒たちは、東大や京大なら浪人するのが当たり前、と考えている感じ。この学校、学年の生徒の半数くらいが浪人するらしい(東大合格者数はもっとはるかに少なかったと思うけれど、私の出身高校も浪人率はそれくらいだったような)。

この小説を読むと(どれくらい現実を反映しているのかわからないけれど)進学高校の評価は、有名大学への合格者数なんだな、と改めて思わされた(うーん…)。ただ、それにしても、東大・京大、東大・京大…、あと早稲田とか慶応とか(関西だから)関関同立とか、そうした有名大学の名前ばかりでうるさいよな、この小説(涙)。東大、京大ばっかり気にしているから、門前払い(足切り)、門前払いうるさいし、センター試験の平均点、平均点うるさいし(涙)。世間的に無名な大学を受けた生徒もいるはずだし、高3クラスの担任教師なら来年(度)からどうなるのか、クラス全員の進路を等しく心配するのが筋なのではないだろうか。なんていうか、社会派ミステリー度が足りないのかな? あ、社会派ミステリーが弱者を描くものだとはかぎらないか。読みどころというわけではないけれど、1992年度(平成4年度)のセンター試験については、データ的にはけっこう細かく書かれている(初出が『中央公論』なんだよね…、この小説を面白く読んでいたのは、受験情報に疎いお父さんたち?)。

これもネタバレしてしまうけれど、(少なくとも小説上)いろいろな不正入学の手口があるなかで、やっぱり推理小説といちばん相性がいいのは、“入試問題漏洩”なのかもしれない。逆に言うと、予備校講師や塾講師がからんでくるミステリーは、入試問題の売買やなんかで関連のなさそうな人物どうしが裏でつながっていることが多い――とでも覚えておけば、読者としては犯人早期発見に多少、役に立つかもしれない(ぜんぜん論理的な方法じゃないけれど(汗))。
 

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