羽田圭介 「ミート・ザ・ビート」
2010年3月5日 読書
同名書(文藝春秋、2010)所収、2篇中の1篇目。読んでいる間はなんとなく面白かった(なんでだろう?)けれど、読み終わってみれば「だから何?」という気分に。内容的には、えーと、眼鏡は顔の一部です……じゃなくて、なんかそれっぽい言葉があったような…、思い出せない(汗)。ひと言でいえば、自動車など、何に乗っているか(乗り物)はその人自身を表す、みたいな小説かもしれない。自転車をこいで予備校やアルバイト先に通っていた主人公の「彼」は、バイト仲間のレイラから中古の(「彼」と同い歳くらいの)ビートを譲り受けることに。自転車から自動車へ、というヤドカリ的な成長譚? と同時に「1家に1台」(東京)から「1人1台」(地方)へ、という脱-家族的な自立譚?
でも、車を維持するにはやっぱりお金がかかる、みたいな。「彼」(バイト仲間からは「ベイダー」と呼ばれている)が車をもらう前、バイト仲間の1人・ブヨは、ホストもしている同じくレイラから、お客の美人デ○ヘル嬢・ユナを紹介されて、彼女にはまってしまったらしく、高額な料金(1回4万8千円)を稼ぐためにアルバイトの量(シフト)を増やし、夜はコンビニでも働き始める、みたいな状態に。車が恋人です……じゃなくて、「ブヨ→ユナ→レイラ」と流れたお金がどうなるかといえば、レイラは自動車レースに出たりもしているらしく、要するに自動車(ガソリンやタイヤ)に消費されるらしい。それはバイト代をビートにかけなければならなくなった主人公も他人事ではなく、要するにすべては車である! という話(違いますか違いますね(汗))。そのほかのバイト仲間を含めて、乗っている自動車それぞれ、
「彼」(ベイダー) …ビート
ケン …ムーヴ
ブヨ …シーマ
レイラ …ランエボ
ザキさん …自動車ではなく原付(スーパーカブ)。
ユナ …クーペ
車種だけでなく、車内をどんなふうにしているかや、車中でどんな音楽をかけているか、もその人(所有者、運転者)を表しているというか。作中の季節は初夏から夏にかけてで、最後、上の6人で(5台に分乗というか、ザキさんがケンの車に乗って、ほかの人は自身の車を運転して)江ノ島に行くことに。
「彼」は、理由がわからないけれど、東京の家族(両親と中学生の弟)のもとを離れて、地方の県の叔父さん(ナオユキ叔父さん、独り者?)の家に仮住まいしている。予備校(全国チェーンのところらしい)は駅の近くにあって、その駅から東京圏までは高速鉄道で、約1時間らしい。志望大学は東京の大学らしい(改めてなぜ地方の予備校に?という疑問が…)。アルバイトは母親には「気分転換程度」と言ってあるらしい。あ、「彼」のアルバイトは新興開発地で新興開発をしているゼネコンの下請け業者の、交通整理係。バイト仲間たちよりは楽な仕事をしているっぽい。なんていうか、高校生でも大学生でもフリーターでも社会人でもない浪人生という主人公の宙ぶらりん、な状況は、ほかの設定とうまくあっている…といえばあっているのかな。浪人生(予備校生)が浪人生(予備校生)らしく描けているかは別として。そういえば、書かれていないのだけれど、「ベイダー」というあだ名の由来はなんだろう? インベーダー・ゲームとかじゃないよね…。でも、「インベイダー」(invader)なら「侵入者」だな。
+++++++++++++++
どうでもいいことだけれど、この小説(が収録された本)を私が知ったのは出版社(文藝春秋)が出していた新聞広告で、そこには次のように書かれていた。
<ホンダ・ビートを手に入れた予備校生とデリヘル嬢。/北関東から湘南へひた走る彼らの青春群像小説。>
内容とのずれ方がちょっといらっとする。小説家って自分の作品が読者や書評家から“誤読”されると怒ったりすると思うのだけれど、こういうインチキ宣伝文句(?)に対しては抗議したりしないのかな?(他人事だからどうでもいいのだけれど)。そう、作品中には「北関東」という言葉は使われていないし、どこからそう判断しているのか、私にはわからない。新幹線が通っていない県、みたいなことが書かれているけれど、北関東は3県とも通っているよね?(G県在住で、出不精の私にはI県がいまいちよくわからないけれど)。([追記]どうやら茨城らしい。知らなかった、新幹線は通っていないのか。)
あと、これもどうでもいいことだけれど、帯にも書かれている<第142回芥川賞候補作>と言う言葉。――宣伝になっているの? あ、受賞作なしに終わった回らしいから多少なってはいるのか。でも、新聞の記事(取って置いてよかった、朝日新聞・2010年1月19日付)よれば、受賞作が出なかった理由は(池澤夏樹が会見で説明したらしい)、まず候補5作のうち、選考委員たちが推す作品が、
藤代泉「ボーダー&レス」
舞城王太郎「ビッチマグネット」
松尾スズキ「老人賭博」
の3作に分かれたかららしい。もう1作、大森兄弟「犬はいつも足元にいて」は(純文学では)初の兄弟共作として話題になっていたらしい。ということは、羽田圭介「ミート・ザ・ビート」は、最下位の5番手、って感じだったのかもしれず…、なんていうか、帯&新聞広告の<芥川賞候補作>という文句は、文字通りたんなる“候補作”である、という意味にとらなければならない? というか、選評が読みたいな。そういえば、いままでに一度も買ったことがないな、『文藝春秋』。
話が逸れてしまうけれど、過去の芥川賞受賞作で、主人公が浪人生の作品って何かあるのかな?(庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』の主人公は、浪人生ではなく高校生として私は認識している)。あるならネット検索ですぐに出てきそう……だけれど、出てこないな。ないなら、逆にいえば、主人公が浪人生の小説は芥川賞を受賞できない、みたいな?(何か呪いでも?)。
[追記]文庫は文春文庫、2015.9。作者が芥川賞を受賞したので文庫化? (2015年上半期、「スクラップ・アンド・ビルド」という作品で、すごく話題になった又吉直樹「火花」と同時受賞。)
でも、車を維持するにはやっぱりお金がかかる、みたいな。「彼」(バイト仲間からは「ベイダー」と呼ばれている)が車をもらう前、バイト仲間の1人・ブヨは、ホストもしている同じくレイラから、お客の美人デ○ヘル嬢・ユナを紹介されて、彼女にはまってしまったらしく、高額な料金(1回4万8千円)を稼ぐためにアルバイトの量(シフト)を増やし、夜はコンビニでも働き始める、みたいな状態に。車が恋人です……じゃなくて、「ブヨ→ユナ→レイラ」と流れたお金がどうなるかといえば、レイラは自動車レースに出たりもしているらしく、要するに自動車(ガソリンやタイヤ)に消費されるらしい。それはバイト代をビートにかけなければならなくなった主人公も他人事ではなく、要するにすべては車である! という話(違いますか違いますね(汗))。そのほかのバイト仲間を含めて、乗っている自動車それぞれ、
「彼」(ベイダー) …ビート
ケン …ムーヴ
ブヨ …シーマ
レイラ …ランエボ
ザキさん …自動車ではなく原付(スーパーカブ)。
ユナ …クーペ
車種だけでなく、車内をどんなふうにしているかや、車中でどんな音楽をかけているか、もその人(所有者、運転者)を表しているというか。作中の季節は初夏から夏にかけてで、最後、上の6人で(5台に分乗というか、ザキさんがケンの車に乗って、ほかの人は自身の車を運転して)江ノ島に行くことに。
「彼」は、理由がわからないけれど、東京の家族(両親と中学生の弟)のもとを離れて、地方の県の叔父さん(ナオユキ叔父さん、独り者?)の家に仮住まいしている。予備校(全国チェーンのところらしい)は駅の近くにあって、その駅から東京圏までは高速鉄道で、約1時間らしい。志望大学は東京の大学らしい(改めてなぜ地方の予備校に?という疑問が…)。アルバイトは母親には「気分転換程度」と言ってあるらしい。あ、「彼」のアルバイトは新興開発地で新興開発をしているゼネコンの下請け業者の、交通整理係。バイト仲間たちよりは楽な仕事をしているっぽい。なんていうか、高校生でも大学生でもフリーターでも社会人でもない浪人生という主人公の宙ぶらりん、な状況は、ほかの設定とうまくあっている…といえばあっているのかな。浪人生(予備校生)が浪人生(予備校生)らしく描けているかは別として。そういえば、書かれていないのだけれど、「ベイダー」というあだ名の由来はなんだろう? インベーダー・ゲームとかじゃないよね…。でも、「インベイダー」(invader)なら「侵入者」だな。
+++++++++++++++
どうでもいいことだけれど、この小説(が収録された本)を私が知ったのは出版社(文藝春秋)が出していた新聞広告で、そこには次のように書かれていた。
<ホンダ・ビートを手に入れた予備校生とデリヘル嬢。/北関東から湘南へひた走る彼らの青春群像小説。>
内容とのずれ方がちょっといらっとする。小説家って自分の作品が読者や書評家から“誤読”されると怒ったりすると思うのだけれど、こういうインチキ宣伝文句(?)に対しては抗議したりしないのかな?(他人事だからどうでもいいのだけれど)。そう、作品中には「北関東」という言葉は使われていないし、どこからそう判断しているのか、私にはわからない。新幹線が通っていない県、みたいなことが書かれているけれど、北関東は3県とも通っているよね?(G県在住で、出不精の私にはI県がいまいちよくわからないけれど)。([追記]どうやら茨城らしい。知らなかった、新幹線は通っていないのか。)
あと、これもどうでもいいことだけれど、帯にも書かれている<第142回芥川賞候補作>と言う言葉。――宣伝になっているの? あ、受賞作なしに終わった回らしいから多少なってはいるのか。でも、新聞の記事(取って置いてよかった、朝日新聞・2010年1月19日付)よれば、受賞作が出なかった理由は(池澤夏樹が会見で説明したらしい)、まず候補5作のうち、選考委員たちが推す作品が、
藤代泉「ボーダー&レス」
舞城王太郎「ビッチマグネット」
松尾スズキ「老人賭博」
の3作に分かれたかららしい。もう1作、大森兄弟「犬はいつも足元にいて」は(純文学では)初の兄弟共作として話題になっていたらしい。ということは、羽田圭介「ミート・ザ・ビート」は、最下位の5番手、って感じだったのかもしれず…、なんていうか、帯&新聞広告の<芥川賞候補作>という文句は、文字通りたんなる“候補作”である、という意味にとらなければならない? というか、選評が読みたいな。そういえば、いままでに一度も買ったことがないな、『文藝春秋』。
話が逸れてしまうけれど、過去の芥川賞受賞作で、主人公が浪人生の作品って何かあるのかな?(庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』の主人公は、浪人生ではなく高校生として私は認識している)。あるならネット検索ですぐに出てきそう……だけれど、出てこないな。ないなら、逆にいえば、主人公が浪人生の小説は芥川賞を受賞できない、みたいな?(何か呪いでも?)。
[追記]文庫は文春文庫、2015.9。作者が芥川賞を受賞したので文庫化? (2015年上半期、「スクラップ・アンド・ビルド」という作品で、すごく話題になった又吉直樹「火花」と同時受賞。)
コメント