ベネッセコーポレーション、1996。手もとにあるのは図書館本。いま読むとちょっと懐かしい感じの、家族に、学校にと悩める高校生青春小説みたいな? 苛立ち(というか)はちゃんと伝わってくる。意外と安心して読めてしまうのは、外枠というか、とりあえず物理的な世界がしっかりしているからかな。大きな木とか鳥の声とか、あと、田んぼ(田園風景)とか。舞台となっているのは、神奈川県でいい?(私にはよくわからない)。というか、内容以前に純文学系の小説(初出は『海燕』同年7月号)は、やっぱり文章じたいがいいよね、その点がダメなエンタメ系小説を読んだあとに読むと(具体的に何を読んでいたかは伏せておくけれど(汗))ちょっとほっとしてしまう。個人的には(ぶれまくりの私としては)必然、評価も高くなってしまう。

3人称1視点小説で、視点を担っているのは、高校2年生の宏(苗字は井上、数学が得意)。冒頭あたりは5月で、すぐに6月に(小説の最後は…何月だっけ、2学期は始まっている)。お父さん(高幸)が、継母と異母弟(尚子と健一)が暮らす東京へと引っ越していく朝から描かれている。で、その日から祖母(の千代)との2人暮らしが始まる。同じ日、学校をさぼって行った大きなユリの木がある城址公園で、浪人生の内山次郎(宏と同じ高校の卒業生・3浪、3つ上の姉が自殺している)と知り合う。宏は内山に自分自身を見出したりしている。ほかに主な登場人物としては、クラスメイトの木山隆子(りゅうこ)とも接近、親しくなっていく。

内山は最初、出会った宏に対して今年は予備校には通っていない、と言っているのに、最後のほう、宏は内山が予備校に通っている、みたいなことを言っている。作者のせいではなくて、宏くん、やっぱり(?)記憶力に問題があるのか、なんなのか。(内山くんの現役から2浪目までの受験結果については、p.19にまとめがある。)ネタバレしてしまうけれど、内山くんは、自殺するのではなくて、原付バイクに乗っていて交通事故死してしまう。――純文学系の長篇小説(それほど長くないから中篇小説かな)としては、以前読んだことがある……なんだっけな(おじいちゃん状態だな(涙))、あ、久間十義『海で三番目につよいもの』か、それとちょっと似ているかな。全体的な雰囲気や登場人物(身分、性格)の設定はぜんぜん違うけれど、「若者=男(の子)が男(の子)と女(の子)と親しくなって、親しくなった男(の子)が死んでしまう」みたいなあたりが。小説としては1つのパターンかもしれない。

ちなみに、奥付の上のところによれば、作者は1954年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒。
 

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