手もとにあるのは『婦人科選手 佐野洋推理傑作選』(講談社文庫、1978)、その9篇中の5篇目。単行本・初出についてはこの本には書かれていない。ほとんど読んだことがないのでよくわからないけれど、佐野洋の小説(ミステリ)って、なんていうか整っていて(端整で)いいな、と思う。主人公は浪人中の時田宏夫。遠縁にあたる野末薬局の2階に下宿して、いま予備校に通っている。その家には大作・多美子の父娘が暮らしている。多美子は薬科大学を卒業して、薬剤師の資格もある。で、ある夜、付き合っていた相手に振られて酔って帰ってきたその多美子に、宏夫くんはキスを奪われて――「惚れてまうやろ~」(by Wエンジン)になってしまうのも、しかたがないやね(汗)。でも、その場面を親父さんにも見られてしまって、翌日から(父娘双方から)無視されてしまう。で(推理小説ということもあるし)殺意を覚えて…みたいな話。“浪人生と下宿の娘(あるいは奥さん)”、“浪人生と年上の女性”というのはそれぞれ1つのパターンかな(似たような小説ばかり読んでいるので、そう思うのかもしれないけれど)。接吻されてしまったあと、宏夫は<以前から、彼女に魅かれていたのかもしれない>(p.145)と自分の本当の気持ちに気がつく(というか、事後的に記憶が変化した?)。

 <彼女が七つ年上であり、薬科大学を出ているのに、自分は入学試験に落ち、現在浪人中だという、一種の劣等感が、多美子に対する思慕を曲げていたのであったようだ。>(同頁)

村山由佳『天使の卵』は9つ上だっけ?(よく覚えていないな)。「恋愛は大学に受かってから」みたいな(意識的な)自制ではなく、「劣等感」による(無意識的な)抑圧というか。前者(=自制)のほうが今風? ま、どちらも同じようなものかもしれないけれど。そう、薬屋さんって、考えてみれば理系なんだよね、なぜかいままであまり考えたことがなかった。あと、この主人公は予備校に、参考書の貸し借りをするような友達がいるようだ(北海道出身、本田)。

[追記(2016/09/15)]初出は『別冊小説新潮』昭和35年(1960年)11月らしい。(10月かも。季刊らしくて、秋号かも。あ、冬号かな?)
 

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