以下すべてネタバレ注意です。すみません。

佐野洋「時間を消す」
<大岡信の『折々のうた』に想を得た短編のシリーズ『折々の殺人』『折々の犯罪』>(文庫、p.6)に続く第3弾『折々の事件』(講談社、1993/講談社文庫、1996)に収録されている1篇(9篇中の6篇目)。デパートで案内係として働いている真田美和。その案内カウンターに(定休日を除いて)毎日、一人の若い男がやって来て「何々(の売り場)はどこですか」みたいなことを言って案内を請う。もちろん仕事なので邪険にもできず。で、この謎の男の本当の目的は…? みたいな話。男の意図は別として、プチストークされる主人公にとっては、緩やかな復讐をされているような? それはともかく、なんていうか、間接的に(?)「浪人中」という言葉も使われているけれど、高校中退で大検に合格していて…みたいな状態では、この小説も「浪人生」と言っていいのか悪いのか、私にはよくわからない。あ、でも年齢が20歳なのか。志望大学をちょっと高望みしているとか? そういえば、美和の恋人・小柳健夫は、彼女の役に立っていないよな。今後この微妙なストーカー(=高田大五郎)の退治の役に立つんだろうか?

遠藤周作「奇襲戦法」
古本屋などで文庫本が見つからなくて、いま手もとにあるのは、ハードカバーの『遠藤周作第二ユーモア小説集』(講談社、1973)。その最初に「男と女」と題されて3話収録されているうちの「第一話」。(同書には「男と女」以外に短篇小説が11篇収録されている。)短大(甲府)を卒業後、東京の広告会社に勤め始めた今井フサ子。会社での隣りの席には“ホームベース顔”の藤堂という若い男性がいて、昼ご飯も食べず、ケチに徹している。フサ子はその藤堂に影響されて節約をし始める――。オチもあるというか、やっぱり遠藤周作は面白いと思う。あ、故郷にいる弟が浪人中という設定(p.19)。

水上勉「立身出世」
手もとにあるのは、角川文庫『決潰』(1964)、その6篇中の5篇目。後ろの「解説」(奥野健男)によれば、この1篇の初出は<「若草」(昭和二十四年十二月)>(p.252)とのこと。「立身出世」というより「故郷に錦を飾ること」?(ま、同じことか)。「私」は、幼いころ盲目の祖母に残酷ないたずらをした悪ガキたちのリーダー・久七(苗字は松沢、地元=福井県の農村の金持ちの次男)がどうしているか、をその後ずっと気にしている。「私」と久七(「私」より3つくらい歳上)それぞれの人生の軌道が書かれていて、お互いに似ていたり似ていなかったり。なんていうか、憎んでいる相手が何か失敗すればいい、みたいな気持ちは誰にでもありますよね?(ない人もいるかな)、そんな感じ(違うか)。父親とその血の繋がっている弟の話だけれど、以前読んだことがある松本清張「父系の指」(初出は『新潮』昭和30年9月号)とか、戦前ではなくて戦後だし、早稲田ではなくて東大だけれど、井上ひさし『花石物語』とかも、ちょっと思い出したりした。あ、そういえば(どうでもいいけれど)、作中に「少年世界」(博文館の雑誌)が出てくる。九七がほかの子どもたちに付録などを自慢していたらしい。

矢野徹「盗まれた東京」
手もとにあるのは角川文庫『桃色の川は流れる』(1981)。その10篇中の2篇目(この文庫本には、単行本や初出については書かれていない)。何が「盗まれた」のかといえば、人間たちの記憶。ある日突然、みんな記憶を失ってしまう。物質的なもの(建物、店で売られていた食料、自動車などなど)はそのままで、頭の程度だけ赤ちゃん同然に。で、偶然に支配されたり(犬に助けられたり)グループ間で争いが起こったりもするけれど、でも、だんだんと秩序ができてきて…、みたいな。そういえば久しぶりにSFを読んだような気がする。けっこう面白かったです。

 <そのうちやがて、それぞれに分担が決められ、五十人が毎日十台の自動車に乗って、まわりの偵察に出た。学校が作られ、全員が毎日勉強をしなければいけないことにもなった。/面白いことに、教育長になったのは、何度大学の入学試験を受けても落第ばかりしていた高校浪人の青年だった。/その青年が教科書を見つけ、その順番を知ったからである。(略)>(pp.77-8)

思い出したのは…といっても、よく覚えていないけれど、筒井康隆「慶安大変記」(『アルファルファ作戦』)の最後のへんに、主人公がマンモス予備校に通いながら、その予備校が大学に昇格するのを期待して待つ、みたいな話、があったような。いわゆる万年浪人生であっても、天変地異やら何かの制度変更やらによって、大学生になれる可能性があるというか?(ちゃんと勉強して受かりそうな大学を受けて、受かったほうが早いよね、たぶん(汗))。

木崎さと子「白い原」
『青桐』(文藝春秋、1985/文春文庫、1988)所収、2篇中の2篇目。感想というか、純文学系の小説は私にはもう無理です(涙)、最後まで読んでも要するに何が言いたいのか、さっぱりわからず。何も感じとれず(涙)。女性の子どもができないお悩み告白小説にはなっていないし、宗教的な深い(?)話がしたいわけでもなさそうだし…。それはともかく、冒頭のへん「私」(=田中、39歳か40歳)が電車に乗っている場面、

 <(略)代々木で、予備校の講習帰りだろう、受験生達がどっと乗り込んできた。原宿から乗った少女達が、押されて嬌声を上げている。浪人生もたくさん混じっているだろう。年齢にふさわしい発散をとめた重苦しい息遣いで、車内のむし暑さは限度にきた。(略)>(p.144、文庫)

「浪人生」の描かれ方としては、夏場、電車内の温度・湿度を上げるうっとおしき若者たち?(うーん…)。よく知らないけれど、「渋谷→原宿→代々木→新宿」というのは、JR山手線? 「私」はこのあと新宿駅の(中央線の)ホームでかつて家庭教師をしていたことがある千花と会って(中央線の電車に乗り換えて)千花が信仰している宗教団体主催のお祭りに行く。

横田順彌「みにくい日本人殺人事件」
短篇連作『奇想天外殺人事件』(講談社ノベルス、1984/講談社文庫、1987)の8篇目(ノベルス版は全10篇、文庫版は全11篇)。TVのニュースで(浪人生といえばやっぱり自殺?)浪人生が電車に「飛び込ん」でいる(笑)。「早稲田明治くん十九歳」「代々木の予備校」に向かう途中。この1篇だけでなく収録作がすべて、多かれ少なかれ“だじゃれ小説”になっているっぽい。お笑い芸人・鳥居みゆきのネタとか、TVドラマ『TRICK』…などとは違うか。ま、でも個人的に嫌いではないです、こういうの。出来の悪いパロディ小説と違って、ネタ元を知らなくても楽しめるからいいと思う。
 

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