いま手もとにあるのは『筑摩現代文学大系 94』(筑摩書房、1977)。初出は『新潮』1967年7月号で、この作品を表題作とした単行本は、翌年に新潮社から出ているようだ。文庫本は新しいところでは、講談社文芸文庫から出ているらしい(『徳山道助の帰郷|殉愛』、画像はこれ)。

で、感想はといえば、けっこう面白かったです。話がわりに淡々と進んでいく(語られている)けれど、なんていうか優しさが感じられる小説です。あ、ただ、個人的にハッピーエンディング好きなもので、終わりのほうはちょっといただけなかったけれど。ま、ご老人が出てくる小説はしかたがないよね、“戦争”のほうが悲惨であるといえば悲惨だろうし。

内容というかは、ひと言でいえば、やっぱり“戦争小説”ということになるのかな。貧しい農家(農村、大分市の近く)の出身で、最後は陸軍中将にまで出世したものの、いまは(わずかな軍人恩給は復活しているけれど)不遇をかこつ感じになっている元軍人の徳山道助(どうすけ)・74歳、その過去と現在とが比較的詳しく語られている。頭の中でごっちゃになりはしなかったけれど、やっぱり登場人物が多いから(きょうだいやその子どもたちなど)ちょっと家系図が欲しくなってくる(汗)。

道助は家を3度手放していて、いまは(それほどな感じではないけれど)ぼけている妻の綾子と、娘の家(の離れ)で暮らしている。あ、「いま」というのは、昭和30年(1955年)。娘の富子は1人娘で、亡くなった夫との間に4人の息子がいる。

  道助―綾子
    L富子―亡夫
       L和夫、治、満、士郎

「一夫」ではなくて「和夫」、以下同様(?)……こういう名前の付け方は以前読んだ小説にもあったな(なんだっけ…、あ、これか、佐江衆一『老熟家族』)。和夫は銀行員。道助の養子に入っている治は(敗戦の年に陸軍幼年学校に入学したりもしている)製紙会社に勤めていていまは北海道に。満はT大生、末っ子の士郎は浪人中、とのこと。ほとんど出てこないかと思ったら、満も士郎も意外と登場してくる。今風の、割り切ったものの考え方をする満に対して、士郎はややひょうきんな感じ。飼い犬の美人犬・ポチの面倒(散歩など)は主に士郎くんが見ているようだ(浪人生=暇人だから?)。あ、もちろん(?)作者にいちばん近いと思われるのは、3番目の満くん。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
ちなみに作者は1933年生まれ。都立日比谷高校卒で、大雑把にいえば2浪して東大…という感じ。手もとにある本の後ろに年譜が付いているから、引用してしまえば、

 1952年、<大学受験に失敗。当時、次兄が父の事業所を借り受け、神田に予備校を設立。そこに通う。(略)>(p.469)
 1953年、<東大入試に再度失敗。千葉大医学部に入学するが、学業身につかず、三度目の文学部受験を決心する。>(同頁)
 1954年、<東大文科二類入学。(略)>(同頁)

という感じ。お兄さんの「予備校」の名前が知りたいな。あと、東大と千葉大って両方受けられるの?(私はあいかわらず入試制度がよくわかっていない(涙))。

[追記]山田克己『予備校 不屈の教育者』(育文社、2009)という本によれば――この本を読むといままでわからなかったいくつかのことがわかってとてもありがたい――、とりあえず、予備校の名前は(そのままだけれど)「神田予備校」らしい。でもこの予備校は、柏原兵三の兄や父が創立(開校)したものではないようだ。次兄は事業を引き継いだだけらしい。そこに兵三が通っていたかどうかについては、この本には書かれていない。
 

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