講談社、2004/講談社文庫、2007。手もとにあるのは、いつものように文庫本。帯は付いたままだし、おぼろげな記憶をたどると、文庫新刊で買ったまま(3年以上か)積んどく状態だったようだ、この本。感想というかは、最初、「中途半端な児童文学?」みたいな印象で読んでいたのだけれど、途中から面白くなって、読み終わってみれば全体的にけっこう面白かった、というような印象。というか、そんなことよりも(?)やっぱり新しめの本は、読みやすくていいやね。読むのが遅い自分としてはとてもありがたい(本が新しいせいではなくて、大江健三郎の小説を読んだあとに読んだせいかな、読みやすく感じたのは)。帯を見ると、映画(化されたもの)では北乃きいが「私」を演じているようだ。個人的にはぜんぜんイメージが合わないけれど。※以下だいぶネタバレさせてしまうような予感がするので、読まれていない方はご注意ください。

 <佐和子の家族はちょっとヘン。父を辞めると宣言した父、家出中なのに料理を届けに来る母、元天才児の兄。そして佐和子には、心の中で次第にその存在が大きくなるボーイフレンド大浦君がいて……。それぞれが切なさを抱えながら、つながり合い再生していく家族の姿を温かく描く。(略)>(カバー裏より)

連作っぽい感じで、順に表題作、「バイブル」、「救世主」、「プレゼントの効用」の4話(4作)が並んでいる。時間はそれに合わせて、とびとびで1年ずつ進んでいる。「私」(=中原佐和子)は最初、中学2年生。――学校といえば「私」は、給食で出される鯖が苦手らしい(サバ、おいしいのにね)。学校が海に近いと言っているわりに、(兄の)直ちゃんが無農薬野菜を育てる仕事をしているからか、家の食卓にはあまり魚類がのぼっていないような? ――それはともかく「父さん」について。父さんが父さんを辞めるという宣言をして、仕事(中学校の社会科教師)も辞めて、大学の薬学部を目指して“浪人生”に。ネタバレしてしまうけれど、3度受験しても受からなかったようだ。2話目(再受験生2年目)には予備校でアルバイト(科目は社会?)をしていて、最後、そのまま“浪人生”をやめて予備校に就職(予備校講師が定職に)。――舞城王太郎「我が家のトトロ」(『スクールアタック・シンドローム』新潮文庫)は医学部志望だったけれど、なかなか受からないもんだよね、大学。社会人(再)受験生は大変だ。もし受かれば受かったでお父さん、6年間(薬学部だから)も大学に通わなくてはいけないし。

で、よくわからないけれど、「役割」の曖昧さがよかったり、悪かったりするのかな、この小説。なんていうか、「勉強」というものや「学校」というものが、けっこう当たり前に(当然のこととして)存在していて、そういう意味でも“世界”はけっこう安定しているような? お父さんが仕事を辞めてしまうのに、みんな経済的な心配も、さほどしていない感じ(「私」はまだ中学生だしね)。

小説的には(?)なんだろう、“勉学”が亡くなって、最後、お父さんが勉強(受験勉強)をやめるというか。――図式的な整理はしないほうがいいような気がするけれど(というか私にはできないけれど)、5年前(小説の最初の時点では)にお父さんが自殺をしていて、お父さんの命を「私」が助けた形になっていて、お父さんは娘に感謝しているというか、その時点で「父-子」の関係が部分的にちょっと逆転していて。父さんが父さんを辞めるのは、そのずれ・ねじれも含めて解消しよう(ゼロにしよう)としている感じ。教師を辞めるということは、「教師-生徒(中学生)」の関係もちゃらにするということだし。――ま、とにかくこの小説に何か教訓があるとすれば、家族がばらばらでも、食事はちゃんと摂ろう、みたいなこと?(違うか)。
 

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