※以下、すべてネタバレ注意です。

佐野洋「切り札」
手もとにあるのは、講談社文庫『贈られた女 佐野洋推理傑作選』(1980)。10篇中の3篇目。この本には初出情報も、単行本情報も書かれていない([追記]初出は『小説現代』1965年8月号?)。仕事中の藤岡容一のもとに突然、弁護士(の高井)が尋ねてきて、強姦殺人の容疑で逮捕された浪人生(東大志望、18歳)の証人になって欲しいと頼まれる。事件があったというその日(7月15日)、藤岡は、会社の同僚たちと社員寮がある場所へ行っていて、その近くのK海岸で高校時代の友人の姉・中里知子(28歳、子ども連れ)と偶然再会していて――。個人的には「またそれか!」という感じだけれど、「受験勉強で抑圧→(性的)欲求不満→性犯罪」みたいな話にはどれくらいの説得力があるの?(うーん)。そう、ちょっと思ったのは、作者は何か振り込め詐欺のシナリオでも簡単に書けそうな感じ? 読み終わってけっこうな“だまされた感”があったです。ま、いわゆる夢オチよりはましか。

なだいなだ「トンネル」
海の近くつながり。いま手もとにあるのは、図書館で借りてきた『れとると』(大光社、1967)。その2篇中の1篇目。初出が書かれていないけれど、(別の本によれば)1964年下半期の芥川賞候補作らしいので、初出年はたぶんその年([追記]初出は『文學界』1964年12月号らしい)。病院の医師、精神科医である「私」(倉先生)のもとに警察(皆川警部)が、弟を殺害して記憶の一部を失っている松村アヤ子(25歳)を連れて来て――。小説全体としてけっこうな分量を占めるアヤ子の手記(治療記録というか)がカタカナ書きになっていて――これほどカタカナの多い小説は初めて読んだかもしれない。読みにくいわ!(涙)。推理小説ではないけれど、女性の心の闇というか、謎は“動機”しかなくて、それが最後のほうで明らかになってくる(個人的には読み終わってもまだもやもやが残っている感じだけれど)。お父さん(元軍人)は亡くなっていてお母さんは家を出て行っていて、姉と弟は2人暮らしだった。殺されたとき(3月31日)弟は、1年浪人して――引用しておこうか、

 <私ハ弟ノ大学ノ試験ノ結果ノコトヲ思イ出シマシタ。弟ハ一年浪人シテ予備校ニ通ッテイマシタガ、今年ハ工大ノ試験ノ一次ニ通ッテイテ、二次ノ試験ノ結果ノ発表ガ十日ニナッテイマシタ。弟ハ、自分一人デ行クノガ嫌デ、私ニドウシテモツイテ行ッテクレト言イ、十日ノ朝ハ、私タチハ二人デ東京ニ行ッタノデス。/弟ハ合格シテイテ、私タチハトテモ喜ビマシタ。次ノ日ハ、弟ハ入学ノ手続キデ出カケ、私ハ一日中、家デブラブラシテスゴシマシタ。(略)>(p.21)

ね、読みにくいでしょう?(涙)。しばらくすると慣れるけどね…。そう、受験とは関係ないけれど、この小説にも、表札泥棒というかが出てくる。ちなみにこの作者、日曜日の朝にたまに『あなたと日テレ』というTV番組を見ていると、何回かに1回、なんとか委員会の模様を放送していて、何か日本テレビの番組についてコメントしていたりする。TVで見るかぎりではお元気そう。ま、お医者さんだしね。

眉村卓「終わりがはじまり」
これも少しカタカナ。手もとにあるのは、角川文庫『モーレツ教師』(1981)。最初にショート・ショートが13篇収録されていて(「ショート・ショート13」)、そのあとにこの短篇が収録されている(そのあとには表題作ともう1篇)。初出や単行本についての記載はない。――勉強を一生懸命がんばって大学に合格したと思ったら、時間が4ヶ月くらい前(11月20日)に戻されてしまって――。4ヶ月…というか実質2ヶ月くらいか、微妙な長さだよね。この「ぼく」はさらに勉強して一段上のレベルの大学を受けて、その結果、残念なことに落ちている。ネタバレしてしまうけれど、異星人によって実験台にされていたことがわかって――引用しておこう。

 <ソノタメニハ カナラズ ミライヲ オナジヨウニヤリナオスニンゲンガ イチバンヨカッタノダ。ジュケンセイナラピッタリダッタ カナラズ オナジヨウナコウイヲハジメルハズダッタ……(以下略)>(p.107)

どういう受験生観なんだよ!(汗)。甦っても同じ行動をとるゾンビー的な? 受験生は疲れているだけでなく“憑かれて”もいるのか? それはともかく、「ぼく」はとっつかまえたその宇宙人を殺してやると脅して、もう一度、時間を巻き戻してもらうことに。小説的にはめでたし終わり? 書かれていないのでわからないけれど、3度目の受験勉強生活は、“現役”受験生ではあっても、多少、浪人生のそれに近いものになっているかもしれないな。(そう、「タイムマシン」と言っているけれど、それを使ったのであれば、もともとその時間にいた「ぼく」はどこに?)

横田順彌「真夜中の訪問者」
もう返してしまったけれど、手もとにあったのは、図書館で借りてみた本、日下三蔵編『日本SF全集2 1973~1977』(出版芸術社、2010)。単著では『対人カメレオン症』という本に収録されているようだ(単行本だけでなく文庫も出ているようだ)。――5月下旬の夜中、大学生の「俺」(=山田吾郎)のアパートに突然、訪ねてきたのは、なんと“横断歩道”!(笑)。村上春樹なら「あしか」とか蛙とか、何か動物系のものがやって来そうなところだけれど。読み進むと、その“横断歩道”の目的やら悲喜劇(?)やらがわかってくる。言われて初めて意識したけれど、考えてみれば、横断歩道って車道も兼ねているんだよね、信号のない交差点の横断歩道なんて、一日のうちで歩行者用の時間よりも自動車用の時間のほうが長そうだし。…それはそれとして。「俺」は現在、通っている大学(東京の国立大学)に入るのに2浪しているらしい。実家は農家で、親の反対を押し切って上京・進学したため、仕送りはなし。中華料理屋でアルバイトをしながら、学校はすでに6年間通っているとのこと。バイトをしないと大学に通えないけれど、バイトをしているから勉強がはかどらない、みたいなよくある悪循環? ――横田順彌の小説、面白いからもう少し読んでみたいのだけれど(岬兄悟とかより自分に向いている気がしないでもない)、例によって最寄りのブッ○オフにはあまり売っていない感じ。
 

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