集英社文庫コバルト・シリーズ、1984。何作出ているのか知らないけれど、この作者のコバルト文庫の2作目。※以下、いちおうネタバレ注意です。

 <軽井沢にきた裕一は、友人の高藤政久の別荘で何者かに殴られて気絶してしまった。その直後、高藤家へ身代金の要求が……。犯人が政久と間違えたため、なんとか助かった裕一は、自分のアパートに住む推理小説好きの女子大生由香に相談した。疑わしい人物は、もと高藤家のお手伝いでセクシーな舞子、会社の金を使い込んでクビになった舞子の従兄の和也。一方、高藤家の家族構成も複雑だった。>(表紙カバーの折り返しより)

「犯人が政久と間違えたため」のあたりがちょっと変かな…、「犯人の狙い(標的)が政久だったため」くらいなら意味が通るかな(あ、1文字増えてしまう…)。ん? 「友人の高藤政久の別荘」と「自分のアパート」もちょっと変か。本人ではなくて自分の家(高藤家、梶田家)の「別荘」、「アパート」のこと。あと、「会社」というのは、政久の血の繋がっていない父親・達吉が社長の「高藤建設」。

1作目(=『嘘つきは殺人の始まり』1983)と設定が微妙に似ている。主な視点人物が東京の予備校生(裕一)で、最初の事件(こちらでは刑事事件にはなっていない)が起こるのが群馬県(軽井沢)、相棒というか推理を担当してくれるのが、家の近くに住む長野県出身の大学生(由香)。両作ともプレイボーイ/プレイガールが出てくるし(ボーイは政久)。でも、個人的にはこの第2作のほうが1作目よりもずっと面白かったな。この急な変化はなんだろう? 比較した場合、1作目のほうが大人向けな印象なのに対して、こちらはジュニア向けな青春小説になっている感じ?(そして私の頭の中が幼稚にできているから、2作目のほうが面白く感じるのか?)。登場人物の平均年齢――はわからないや(汗)、でも、この2作目のほうが若い人の人数が増えているような。1作目よりは全体的に作中の“温度”が高い感じもするし(8月下旬以降=もう残暑ではあっても、季節がいちおう夏だからというのもあるかもしれない)、登場人物たち(特に浪人生&大学生)の会話も1作目より生き生きしていると思う。そう、1作目ではきょうだい関係が多かったけれど、こちらでは親子関係も書かれている(“深さ”が増している?)。

裕一(姓は梶田、19歳)は代々木の予備校に通っているらしい(1作目の浪人生は代々木ではなく神田だった)。2流の私大に落ちて浪人中、らしい。でも、3流の私大(=天正大学)には合格していたらしい。お父さんはサラリーマンで現在、名古屋に単身赴任中。家族はほかにお母さん(敏子)と妹(秀子)がいる。家(最寄の駅は東中野)の隣には、家の持ちアパート(『梶田荘』)があって――わからないけれど、4人家族、経済的には恵まれているほうかな? そのアパートに入居している野町由香(名門中の名門・東華女子大英文科の2年生、大学には現役合格)に対して、裕一くん(例によって童貞)はあれこれ言ってみているけれど、なかなか相手にしてもらえない。浪人生(受験生)としての自覚は、…どうなのかな? この人ものん気といえばのん気な感じかな。とりあえず本人発信ではなく、(小説・現実ともに)ありがちかもしれないけれど、人から――母親や妹、由香などから――浪人生であることを自覚させられている感じ。例えば、

 <「そういう根性だから、浪人しなければならないのよ」>(p.48、妹・秀子)
 <「推理は頭の体操になるから、これを一生懸命やると、二浪しないで済むわね、きっと」>(p.69、町野さん)
 <「その意気込みで、来年は、せめて二流大学に合格してちょうだい」>(p.148、母・敏子)

という感じ。裕一の同じ予備校友達・政久のほうは、父親の会社を継ぐために文系志望から理系志望(建築学科志望)に変えたこともあって、浪人しているようだ(こちらはお金には困っていないだろうから、2浪以上しても大丈夫?)。

どうでもいいけれど、大学生・町野さんが浪人生の裕一くんにちょっと嘘を教えている箇所が。

 <「ほんとだとしたら彼女の心境は、ア ピティ イズ ラブ」/「何だい、それ」/「シェークスピアが、ある劇の中で使った台詞よ」/「シェークスピア氏とは会ったことがない。どういう意味なの」/「可哀そうだってことは惚れたってことよ……たしか漱石の訳よ」/「漱石さんとも付き合いがない」/「そんなふうだと、二浪するわよ」/(略)>(p.102)

やっぱり掛け合いが面白い(*1)というか、↑けっこう生き生きしているよね。それはともかく、シェイクスピアのことは知らないけれど、とりあえず、夏目漱石の『三四郎』に出てくるのは、Pity’s akin to love.という文で(’sはis)、それを登場人物の1人(与次郎)が「可哀想だた惚れたって事よ」と訳す。町野さん、頭の中で何か、複数の知識がごっちゃになっているのかもしれない。

あと、「誘拐」(正確には「監禁」のみだけれど)で思い出した、2, 3年くらい前に勝目梓『日蝕の街』という小説(文庫本)を買ったまま、いまだに読んでいない。セックス&バイオレンス? このまま一生、読まずじまいになりそうな…(涙)。思い出せないけれど、ほかにも何かあったかもしれない、“浪人生誘拐され小説”。


*1 参考文献を挙げておかないと。末永昭二『貸本小説』(アスペクト、2001)です。ちなみに作者の若山三郎は、昭和6年(1931年)3月・新潟県生まれ。あ、小峰元(大正10年=1921年3月生まれ)よりも、ひと回り若いんだね(干支ではなくて十の位)。浪人しているかどうかはわからないけれど、大学は明治大学中退らしい。
 

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