三浦浩 『消された依頼人』
2011年7月25日 読書
廣済堂文庫、1991(=『フリスコからの贈り物』勁文社、1988)。『弔いの街』(廣済堂文庫、1990、=『復活なきパレード』勁文社、1987)に続く<柏木大介シリーズ>の2作目。以前、第3作『おれは探偵(ディック)だ』(廣済堂出版、1992)を先に読んでしまったせいか、今回1作目から読み始めたのだけれど、かなり既視感があったです(涙)。やっぱりシリーズものは刊行順に読んだほうがいいかも。感想はといえば、全体的に(あまり深く考えずに淡々と読んでいた気もするけれど)意外と面白かったです。※以下、毎度すみません、ネタバレ注意です。いちおうシリーズ3作に関して。
<脱サラ探偵・柏木大介の許に調査依頼が舞い込んだ。依頼主は女子高生で、内容は男子受験生の挙動であった。さらに大学教授から入試に絡む、予備校の調査依頼が来る。しかし、女子高生は高校のプールで水死体となり、教授も暴漢に襲われたのち、病院のベッドで殺害されてしまう。一方、大介も警察に追われ、殺し屋に命を狙われ始める。そんな折、同居人の知佐子がサンフランシスコへ飛び事件を解く鍵を探り出す――。>(表紙カバーより)
1作目は1987年4月で、この2作目はそれから約半年後の秋の話。東京の土地の値段が上がっていたり、…要するにバブル期だよね。大介(36歳)と麻生知佐子(18歳)の関係は、年齢差(18歳差)を考えると「父と娘」でも「兄と妹」でもなく、「叔父と姪」の関係に近いのかな? 1作目で両親と姉を亡くした知佐子(いちおう世間知らずのお嬢さん)の新しい親権は、京都に住んでいる叔母の小池富久子に。小説の最初のへんで大介がその叔母さんと寝ている(ことになっている)のも、小説的には必然性がある?(富久子には夫がいるらしいので、不倫といえば不倫)。そもそも「ハードボイルド」の定義(条件)ってどんな感じ? 女子高生というか若い娘を前にしても耐える(やせ我慢する)みたいなことも含まれるの? ――というか、こんなにゆっくり書いていると永遠に書き終わらないな(汗)。
上の「女子高生」というのは、知佐子の小学校時代の同級生・東川里美(とうかわ・さとみ)のこと。都立N高校の3年生で、御茶ノ水にある「医進予備校」に通っているらしい(ほかに「メディック」という予備校にも通っていると言っている。大学合格率は「医進~」が1位で、「メディック」が2位とのこと)。医学部志望の理由というかは、とりあえず、交通事故で亡くなっているお父さんが勤務医だったそうだ。その里美のボーイフレンドというか、好きな相手が同じ予備校(「医進」)に通っているという馬庭悟。1浪(19歳)で、吉祥寺のアパートで1人暮らし。里美はその悟から紹介された、あやしいアルバイトを引き受けていることもあって――、探偵の大介に馬庭くんについて調べてほしいと依頼。でも、この浪人生は結局、大介の前に直接姿を現すことはない(残念)。そう、でも、1作目のほうがひどいかもしれない、逃げ水というか、探していた人物は死体となってしか登場してこない。
36歳くらいの大人(私もほぼ同じくらいの年齢)にとって、たしかに“予備校”はあまり縁のない場所だよね(p.94あたりの話、節番号でいえばⅥ)。この小説のテーマの1つが、「受験戦争(受験競争、受験地獄)」とか言われると、それはちょっと違う、ような気もするけれど、いちおう“裏口入学もの”ではあるか。最後、アメリカに飛んで、あれこれ判明するのだけれど、個人的には(少ない読書量から言って)手口にはけっこう意外性はあったかな。そう、「ディック」という名前の大学生が出てきて、知佐子にメロメロ(?)なのだけれど、それでシリーズ第3作のタイトルが『おれは探偵(ディック)だ』になったの?(知佐子はおれのものだ? …違うか)。あ、3作目を読み直せば何か書いてあるかもしれないな、2作目がらみのことが。
あと、ちょっと“偶然”が多めだったような。別々の2人の依頼内容が実は繋がっていた、というだけなら(偶然が1つだけなら)まだしも、自分の進路について考え始めた知佐子が(バークレー校を見学するために)サン・フランシスコを訪れて、偶然にも「事件を解く鍵」を探し当ててしまう、くらいになるとちょっとな…。最後のへん、大介が“フリスコ”を訪れてから(事件解決に関しては)バタバタっと終わってしまうような?(そうでもないか…)。そう、登場人物がもっと多くないと、疑わしい人間がかぎられてしまうから、犯人(3つの殺人事件の)を聞いても、ああそうか、くらいな…。関係ないけれど、いま綴りを確認しようと思って英和辞典で“Frisco”を引いてみたら、<同市市民はこの表現を好まない>という注意書き(?)が載っている(『リーダーズ英和辞典』第2版)。なんとなく怒られた気分(涙)。これも関係ないけれど、時代というか、竹内志麻子(岩井志麻子)『そこで そのまま 恋をして』(集英社文庫コバルト・シリーズ、1987.7)の「あとがき」にこんな箇所がある。
<この、『そこで そのまま 恋をして』が発売される頃、私はたぶんサンフランシスコにいるはずです。>(p.235)
秋ではなくて夏だけれど、同じ1987年、ニアミスと言ってもいいかもしれない。あ、いや、もちろん小説(フィクション)と現実は違うけれど。
話を戻して。そういえば、里美が悟のアパートの部屋で見たとかいう女性は結局、誰だったんだろう?(どこか書かれていたっけ?)。あと(だいぶネタバレしてしまうかもしれないけれど)里美は悟と会ったあと「柏木事務所」を訪れて、そのあと電話で悟をそこに呼んでもう1度会っているの?(私はどこか読み間違いをしている?)。ほかにも、大介が赤提灯(やきとり屋)を出たあと路上で襲われた件も、結局、襲ったサイドと助けたサイトが繋がっていた…わけか(うーん…)。
面白かったと言いつつ、けなしてばかりのような…(汗)。そう、ちょっと可愛らしさもあるかな。最初のへん、大介がお土産に天津甘栗(!)を買って帰っている。そういえば、1作目では「おむすび」がいい味(?)を出していたっけ。意外と和風な?(あ、天津甘栗は中国か)。銘柄はいろいろだけれど、缶ビールがよく出てくるし、――意外と庶民的な? ビールといえば、売っていないけれど、マクドナルドのハンバーガーにビールはよく合いそうだよね(村上春樹『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』にもそんな場面がなかったっけ?)。私はお酒を飲まないのでよくわからないけれど。ちなみに第3作では、知佐子(家は中野区野方)は代々木の予備校に通って1浪ののち、J大に合格している。
作者はたぶん浪人はしていないと思う。『日本ミステリー事典』(新潮選書、2000)を引いてみると、1930年10月生まれで、<京都大学文学部卒。1953年、産経新聞入社>とあるから(大学は卒業していて、23歳になる年に就職しているから)浪人はしていないと思う。でも(小松左京や高橋和巳と同じで)学制改革がらみ、この人は旧制高校はどうしたのかな?(4回も直木賞候補になっているのだから、どこかに年譜くらいある?)。関係ないけれど、後ろの解説(大阪新聞編集委員・田中準造)にこんな箇所がある。
<たとえば『京都大学殺人事件』(一九八二)でも、この突然の死の恐怖が至るところにちりばめられているが、大阪・茨木に住んでいた文人、故・富士正晴はこのことを、あの魅力的な口調で「こわいでえ。三浦の書くもんはほんまにこわいわ」と語ったことがある。>(p.313)
三浦浩と富士正晴にはどういう関係が? 『京都大学殺人事件』(集英社文庫)は持っているのだけれど、未読です。でも、けっこう最初のほうから喫茶店『進々堂』が出てくる模様。
<脱サラ探偵・柏木大介の許に調査依頼が舞い込んだ。依頼主は女子高生で、内容は男子受験生の挙動であった。さらに大学教授から入試に絡む、予備校の調査依頼が来る。しかし、女子高生は高校のプールで水死体となり、教授も暴漢に襲われたのち、病院のベッドで殺害されてしまう。一方、大介も警察に追われ、殺し屋に命を狙われ始める。そんな折、同居人の知佐子がサンフランシスコへ飛び事件を解く鍵を探り出す――。>(表紙カバーより)
1作目は1987年4月で、この2作目はそれから約半年後の秋の話。東京の土地の値段が上がっていたり、…要するにバブル期だよね。大介(36歳)と麻生知佐子(18歳)の関係は、年齢差(18歳差)を考えると「父と娘」でも「兄と妹」でもなく、「叔父と姪」の関係に近いのかな? 1作目で両親と姉を亡くした知佐子(いちおう世間知らずのお嬢さん)の新しい親権は、京都に住んでいる叔母の小池富久子に。小説の最初のへんで大介がその叔母さんと寝ている(ことになっている)のも、小説的には必然性がある?(富久子には夫がいるらしいので、不倫といえば不倫)。そもそも「ハードボイルド」の定義(条件)ってどんな感じ? 女子高生というか若い娘を前にしても耐える(やせ我慢する)みたいなことも含まれるの? ――というか、こんなにゆっくり書いていると永遠に書き終わらないな(汗)。
上の「女子高生」というのは、知佐子の小学校時代の同級生・東川里美(とうかわ・さとみ)のこと。都立N高校の3年生で、御茶ノ水にある「医進予備校」に通っているらしい(ほかに「メディック」という予備校にも通っていると言っている。大学合格率は「医進~」が1位で、「メディック」が2位とのこと)。医学部志望の理由というかは、とりあえず、交通事故で亡くなっているお父さんが勤務医だったそうだ。その里美のボーイフレンドというか、好きな相手が同じ予備校(「医進」)に通っているという馬庭悟。1浪(19歳)で、吉祥寺のアパートで1人暮らし。里美はその悟から紹介された、あやしいアルバイトを引き受けていることもあって――、探偵の大介に馬庭くんについて調べてほしいと依頼。でも、この浪人生は結局、大介の前に直接姿を現すことはない(残念)。そう、でも、1作目のほうがひどいかもしれない、逃げ水というか、探していた人物は死体となってしか登場してこない。
36歳くらいの大人(私もほぼ同じくらいの年齢)にとって、たしかに“予備校”はあまり縁のない場所だよね(p.94あたりの話、節番号でいえばⅥ)。この小説のテーマの1つが、「受験戦争(受験競争、受験地獄)」とか言われると、それはちょっと違う、ような気もするけれど、いちおう“裏口入学もの”ではあるか。最後、アメリカに飛んで、あれこれ判明するのだけれど、個人的には(少ない読書量から言って)手口にはけっこう意外性はあったかな。そう、「ディック」という名前の大学生が出てきて、知佐子にメロメロ(?)なのだけれど、それでシリーズ第3作のタイトルが『おれは探偵(ディック)だ』になったの?(知佐子はおれのものだ? …違うか)。あ、3作目を読み直せば何か書いてあるかもしれないな、2作目がらみのことが。
あと、ちょっと“偶然”が多めだったような。別々の2人の依頼内容が実は繋がっていた、というだけなら(偶然が1つだけなら)まだしも、自分の進路について考え始めた知佐子が(バークレー校を見学するために)サン・フランシスコを訪れて、偶然にも「事件を解く鍵」を探し当ててしまう、くらいになるとちょっとな…。最後のへん、大介が“フリスコ”を訪れてから(事件解決に関しては)バタバタっと終わってしまうような?(そうでもないか…)。そう、登場人物がもっと多くないと、疑わしい人間がかぎられてしまうから、犯人(3つの殺人事件の)を聞いても、ああそうか、くらいな…。関係ないけれど、いま綴りを確認しようと思って英和辞典で“Frisco”を引いてみたら、<同市市民はこの表現を好まない>という注意書き(?)が載っている(『リーダーズ英和辞典』第2版)。なんとなく怒られた気分(涙)。これも関係ないけれど、時代というか、竹内志麻子(岩井志麻子)『そこで そのまま 恋をして』(集英社文庫コバルト・シリーズ、1987.7)の「あとがき」にこんな箇所がある。
<この、『そこで そのまま 恋をして』が発売される頃、私はたぶんサンフランシスコにいるはずです。>(p.235)
秋ではなくて夏だけれど、同じ1987年、ニアミスと言ってもいいかもしれない。あ、いや、もちろん小説(フィクション)と現実は違うけれど。
話を戻して。そういえば、里美が悟のアパートの部屋で見たとかいう女性は結局、誰だったんだろう?(どこか書かれていたっけ?)。あと(だいぶネタバレしてしまうかもしれないけれど)里美は悟と会ったあと「柏木事務所」を訪れて、そのあと電話で悟をそこに呼んでもう1度会っているの?(私はどこか読み間違いをしている?)。ほかにも、大介が赤提灯(やきとり屋)を出たあと路上で襲われた件も、結局、襲ったサイドと助けたサイトが繋がっていた…わけか(うーん…)。
面白かったと言いつつ、けなしてばかりのような…(汗)。そう、ちょっと可愛らしさもあるかな。最初のへん、大介がお土産に天津甘栗(!)を買って帰っている。そういえば、1作目では「おむすび」がいい味(?)を出していたっけ。意外と和風な?(あ、天津甘栗は中国か)。銘柄はいろいろだけれど、缶ビールがよく出てくるし、――意外と庶民的な? ビールといえば、売っていないけれど、マクドナルドのハンバーガーにビールはよく合いそうだよね(村上春樹『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』にもそんな場面がなかったっけ?)。私はお酒を飲まないのでよくわからないけれど。ちなみに第3作では、知佐子(家は中野区野方)は代々木の予備校に通って1浪ののち、J大に合格している。
作者はたぶん浪人はしていないと思う。『日本ミステリー事典』(新潮選書、2000)を引いてみると、1930年10月生まれで、<京都大学文学部卒。1953年、産経新聞入社>とあるから(大学は卒業していて、23歳になる年に就職しているから)浪人はしていないと思う。でも(小松左京や高橋和巳と同じで)学制改革がらみ、この人は旧制高校はどうしたのかな?(4回も直木賞候補になっているのだから、どこかに年譜くらいある?)。関係ないけれど、後ろの解説(大阪新聞編集委員・田中準造)にこんな箇所がある。
<たとえば『京都大学殺人事件』(一九八二)でも、この突然の死の恐怖が至るところにちりばめられているが、大阪・茨木に住んでいた文人、故・富士正晴はこのことを、あの魅力的な口調で「こわいでえ。三浦の書くもんはほんまにこわいわ」と語ったことがある。>(p.313)
三浦浩と富士正晴にはどういう関係が? 『京都大学殺人事件』(集英社文庫)は持っているのだけれど、未読です。でも、けっこう最初のほうから喫茶店『進々堂』が出てくる模様。
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