文藝春秋、1984/文春文庫、1987(「奔る」の読み方は「はしる」)。連作というか、最初に「プロローグ」、「第三話」と「第四話」の間に「インターミッション」、最後に「エピローグ」があって、それ以外の部分は1話ごとに事件(いちおう殺人事件が多い)が起こって解決する感じの話が、計7つ(全7話)。※毎度すみません、以下ネタバレ注意です。

 <ぼくの伯母さん・アガサは、なんとロス一の腕利き私立探偵なんだ。マフィア幹部の未亡人で、日系人社会の女長兵衛。その上マリリン・モンローの親友だったというから凄いだろう。受験浪人のぼくは母をだまして留学したものの、勉強なんてそっちのけで…FBI、CIAを手玉にとる日系熟年美女アガサの活躍を描く痛快ミステリー。>(文庫の表紙カバー後ろ側より)

「私立探偵」といっても色々なタイプが…。アガサ伯母さんは、未亡人でいるかぎり地元マフィアの組織から身を守られている。――それはともかく、ぜんぜん期待していなかったせいもあるけれど、すごく面白かったです。ユーモアもあるし、けっこう“キャラ立ち”もしている、からかな。あと、たまにこういうアメリカ(といっても西側のカリフォルニア州あたりだけだけれど)が舞台の小説を読んだりすると、例によって(?)“自由な空気”が、ちょっといいなと思えたりする。あ、でも、この小説では、人の殺され方がちょっとなぁ…。マフィアが冷酷非情なのは(小説でも現実でも)当然というかお約束かもしれないけれど。それにしても…。特に(直接描かれているわけではないけれど)「白黒のショウ」(第三話)というのが、個人的には頭の中で想像してしまって、それ以来ちょっとトラウマになっているっぽい(いつか夢に出て来そうだ(涙))。そう、この作者(1925年生まれ)の戦争体験って、どんなだったのかな?(直木賞作品『黒パン俘虜記』を読めばわかる?)。

伯母さん(56歳だっけ?)が暮らしているのは、ロサンゼルスの「小(リットル)東京」と呼ばれている場所にある安いホテル(「ワシントンホテル」)。お金がなかったり訳ありだったりする日本人たちの吹き溜まりになっている(日本人が3人集まれば査証=ビザの話が始まるとのこと)。そのホテルには、個性的な面々の日本人や日系人がいたりするのだけれど、そのなかに、牛丼屋でアルバイトをしている裕子という日本人学生もいて、伯母さんと同居し始めた「ぼく」は、早々に手続きが済んで、その裕子といっしょに大学=UCLA(の美術科)に通い始めている。「ぼく」と裕子は、伯母さんの助手見習いのような存在で、仕事(というか)を手伝っている。

冒頭で19歳の「ぼく」は、<来年はハタチおじんの仲間入り>(p.9)と嘆いている(早生まれか?)。でも、アメリカに留学して青春を謳歌…というよりは(夏休みも長くて実際に謳歌はしているけれど)、危険が付きものの通過儀礼というか、要するに「ぼく」に注目すれば“成長小説”な感じになっている? 具体的にいえば、一緒に出かけるときに伯母さんは「ぼく」に対して、きれいなパンツをはいて行きなさい(ドクター・ノブチに解剖台の上できたないパンツを見られてもいいの?)みたいな忠告をしている。あ、「ぼく」は伯母さんからはいつも「哲ちゃん」と呼ばれている(最後のほうで別の人から「テツオ君」と呼ばれている。「オ」の漢字が不明。そう、伯母さんの「アガサ」という名前の由来も不明)。ちょっとネタバレしてしまうけれど、「ぼく」と裕子は、後半、大相撲ロス場所開催のために協力するなかで、純度の高いコカイン(もちろん白い粉)を24時間作り続けている(第六話)。お清め…ではないか、禊(みそぎ)でもないな…、でも、ちょっと儀式っぽいよね。作中、描かれているのは年内いっぱい(合計9ヶ月くらいか)。

  19歳・子ども(「ばかね哲ちゃん」byアガサ) → への接近(危険な目、犯罪行為など)や様々な人たち(暴力組織、日本人だけでなく何々系アメリカ人、中国人、メキシコ人など) → 20歳・大人(おじん)

ラスベガスでのカジノも描かれているけれど、ある意味では、生/死も“賭け”だったりする。

そういえば、英語の勉強のため(英語を重点的に強化したい)みたいな嘘を「ぼく」につかれてしまったお母さん(「ママ」)は、息子に<東大や有名私大>に入ってもらいたかったらしいけれど、意外とこの「ぼく」をほったらかしにしている? 伯母さんが国際電話で近況を報告したりしているのかな? というか、「ぼく」は、来年の受験(2浪目の受験)はどうするんだろう? 作中年は昭和57年=1982年で、翌年は1983年だから、…国立大学を受験するなら共通1次試験はあるよね(1月中?)。お母さんに早いとこ、私立探偵・アガサの助手になる宣言をしないといけないよな。(あ、登場してこないけれど、哲ちゃんには「ママ」だけでなく「パパ」もいるようだ。)

そう、話が前後してしまうけれど(というか最初から「前」も「後」もないけれど)アメリカの大学って(いまでも)そんなに簡単に入学できてしまうの?(私にはよくわからんです)。アメリカが大学に関しても“自由”であるとすれば、逆にいえば(少なくとも、語り手が日本を飛び出しているこの小説的には)日本で若者を束縛し、不自由にさせている典型的なものが“受験勉強”ということになる…のか。でも、受験勉強生活が灰色かどうかはともかく、私もそうだったけれど、ふつう(?)1浪しても受からなかった時点で、「もう1年勉強しても無駄じゃないか」とは考えたりするよね(すぐに「よし、もう1年浪人じゃー」みたいな人は少ないと思う)。

アガサ伯母さんの魅力についてぜんぜん書いていないな…、まぁいいか。伯母さんは、最後「オンリー」から「ファースト」へ、みたいなことに?(意味不明か)。なんていうか戦後40年弱くらいでは“戦争”は終わっていないよね(今年=2011年、戦後66年にもなるけれど、まだまだ終わっていないし)。そう、ぜんぜん関係ないけれど、「コンビネーション寿司」はちょっとおいしそう。いろいろな寿司ネタの余りの切れ端を寄せ集めて作った握り寿司(ひと口サイズの海鮮ちらしみたいな?)。そういえば、“人種の坩堝”に対して“サラダ・ボウル”という言葉がなかったっけ? アメリカ滞在中貧乏日本人たちのご馳走「コンビネーション寿司」――これぞジャパニーズな感じ?(例えばアボカド寿司ならアメリカン? …差別か(汗))。そう、古くて宿泊費の安いホテルの前には、成功した日本人が建てた新しくて高いホテルがあるのだけれど、安ホテルの住人たちは、そのホテルのことを「交通事故ビル」と呼んでいる。本を読みながら歩いていたら車に引かれちゃう! と言いたくなるようなおバカな(?)銅像が立っていたりするから。

繰り返しになってしまうけれど(このブログでは似たようなことを何度か書いている気がするけれど)、1年浪人しても大学に受からなかったら海外に留学(あるいは海外を放浪)してしまう、というのは、19歳くらいの若者かつ日本人としてはどうなのかな? …私にはわからんです。うーん…、でも、お薦めはしないけれど、選択肢の1つとしてはあってもいいかな、と思わなくもない。人それぞれだし、いまインターネットもあるから以前よりも世界はずっと“狭く”なっていそうだし。(あ、ただ、治安が悪い場所では十分に気をつけてくださいな。)
 

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