だいぶ前に「青空文庫」で知って、気にはなっていたのだけれど、そのまま読んでいなかったもの。最近、本屋で東雅夫編『文豪怪談傑作選・昭和篇 女霊は誘う』(ちくま文庫、2011.9)というアンソロジー本を手にとってみたら、収録されていたので買ってみた。(本の)後ろのほうによれば、初出は<『サンデー毎日』1924(大正13)年1月号>とのこと(「サンデー」なのに週刊誌ではなくて月刊誌?)。収録作品のなかでこの1篇だけ「昭和」ではなくて、まだ「大正」なようだ。単行本は……細かいことはいいか(汗)。感想というかは、とりあえず(一読した段階では)微妙…だったかな。どういう風に読めばいいのやら楽しみ方(?)がわからない。

種々雑多な、大勢の人々が集まって活動しているのが、ザ・都会。どこの地面をとっても、かつて誰も踏んでいない場所はなく、誰にも触れられていない壁などもなく、空気にしても以前に誰かが吸ってはいたものを、また別の人が吸ってはいている。「幽鬼」ではなくて「幽気」――以前にその場所にいた人の気持ちというか、気配というか雰囲気というか。暴風雨やなんかで吹き飛ばされたり、洗い流されたり(?)してしまうらしいけれど、夜や、昼間でも曇った日には、あちこちにそれらが吹き溜まっているようだ。何で生計を立てているのやら職業が不明な「私」は、失恋をきっかけに、賑やかさを求めて友人たちと遊んだりして、日常的に帰宅する時間が遅くなっていたけれど、ある夜、下宿までの道を歩いていると、誰かがあとを付けてくる気配が…。「志村、後ろ後ろ!」状態…ではないけれど、もちろん(?)振り返っても誰もいない。で、だんだんと感度がよくなってくるというか、「私」はどんどん見えるようになっていく。――なんていうか、とりあえず“憑かれるかもしれない恐怖”が描かれた小説?

机に座っていると、右手の上のほうには、何かがぶらさがっているような…。ついに家の中にまでか! で、それは若い男の姿をしている。――下宿のお上さん(が登場)の話によれば、

 <丁度五年前のやはり今時分、あの室で年若い学生が縊死を遂げた。大変勉強家のおとなしい静かな男だったが、高等学校の入学試験に失敗をして、この下宿から一年間予備校に通っていたが、翌年また失敗をして少し気が変になり、そこへまた不運なことには、この下宿にいた年増な女中からいつしか誘惑され、その女中が姙娠したことを知って、初心な気の弱さの余り世を悲観して、遂に死を決したものらしい。故郷の両親へ宛てた遺書の一通が見出されたけれど、ただ先立つ不孝を詫たばかりで、事情は少しも書いてなかった。(略)>(p.92)

とのこと。これだけではよくわからないけれど、浪人生の自殺――動機というか原因というかは、例によって(?)複合的な感じ。2年続けて受験に失敗しただけでは(それくらいでは)あまり死のうとは思わないかも。好意的にみれば、お姉さん的な存在の女性が、大学…じゃなくて旧制高校か、の受験に失敗した可哀想な浪人青年を慰めているうちに恋愛に発展? 遺書でも口数が少ない感じの元浪人生――内向的、というか思いを内に込めるタイプだったのかな、この学生さん? あ、でも、「妊娠」がわかって以降、相手から結婚を迫られたのか、あるいは出産とか中絶とかの多額な費用を請求されたのか…? ま、もうどうでもいいか(汗)。そう、小説中の自殺というと、個人的には月明かりの晩に水(海や川、湖、沼、池など)に入る、みたいなイメージがあるけれど、ホラー系の小説ではわりと縊死(首吊り)が多い?

作中の時代がわからないけれど(「今時分」というか、季節もよくわからない感じだけれど)、初出の1924年(大正13年)くらいであるとすれば、「五年前」というのは、1919年(大正8年)くらいになる。まだ四修(中学四年修了)では受験できなかったあたりの年?(正確なことは、何か本を読み返さないとわからないな(涙))。かなりいいかげんな推測だけれど、

  1916年くらい 中学4年
  1917年くらい 中学5年
  1918年くらい 浪人1年目(上京して予備校)
  1919年くらい 浪人2年目というか、自殺

こんな感じかも。ちなみに、作者の豊島与志雄(とよしま・よしお)はたしか、旧制高校(というか一高)に入るのに浪人はしていなかったと思う(うろ覚えだけれど)。芥川龍之介や久米正雄のように無試験入学?
 

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