五條瑛 『赤い羊は肉を喰う』
2011年12月26日 読書
幻冬舎、2007/幻冬舎文庫、2009。文庫が出たときに購入してそのまま2年以上積ん読状態だったもの。700ページ近くもある厚さだけれど、読み始めてみたらかなり読みやすかったし、…こんなことならもっと早く読めばよかったよ(汗)。結末に向けて一直線に進んでいく感じではないけれど、話が途切れないというか、読んでいて“待たされる”ことがなかったというか。作者や作品にもよるだろうけれど、基本的にエンタメ系の小説は読みやすくていいよね。内容的にも(少しもの足りなかったというか、ちょっと浅い感じもしたけれど)全体的にわりと面白かったです。※以下、すみません、ネタバレ注意です。
<下町・八丁堀で働く内田偲は、単調だが平穏な日々を愛し楽しんでいた。だが街に少しずつ不穏な空気が流れ始め、犯罪が不自然なほど急増する。原因を探る偲が辿り着いたのは、人を思い通りに操ろうとする企みだった。金も力も組織もない若者は街を救えるのか? 心理操作の恐怖と人間の<愚かしさと愛しさ>を精緻に描く鮮烈エンターテインメント!>(表紙カバー後ろより)
東京の下町・八丁堀に事務所をかまえるリサーチ会社『内田調査』に勤めている“計数屋”の内田偲(しのぶ)。「会社」といっても、社員は社長を含めて3人しかいない。しかも、たまたま偲と同じ苗字をもつ社長の内田雅弘は、仕事に対する熱意がない感じだし、もう1人の従業員で社長と付き合っている矢上倖(さち)は、遅刻は当たり前、出社をしても化粧を直したりファッション誌を読んだり、入社以前からしているコンパニオンの仕事をまだやめていなかったりする。――こんなにゆっくり書いていると書き終わらないな(汗)。
読んでいて女性目線の箇所がまったくなかったような。主人公というか偲目線の箇所がいちばん多いのだけれど、それ以外の箇所も、すべて男性(/男の子)目線だったような…。視点担当が2番目に多いのは、いちおう浪人生の柳沢笙(しょう)か。ほかには、内田調査の下の階(1階)にある桐細工専門店『桐物語』の若旦那・太郎(苗字は宮崎)、あと内田社長目線の箇所もあるし、調査会社と同じフロア(3階)にある『三田ガラス』に勤める高(こう)さん(韓国出身の元Jリーガーで、偲は同じ草サッカーチームのメンバー)目線の箇所も少し、終盤のほうでは同じ三田ガラスで修業を兼ねたアルバイトをしている内海貴史も視点を担当――。若い男の子や精神年齢が若い男性ばかり? 要するに、微妙にうっすらBL小説?(違うか)。もう30歳は過ぎているけれど、拘束のゆるい自由な会社に勤めている偲は、会社のご近所の人たちからは愛されていて「偲ちゃん」と呼ばれたりもしている。社長と同じく軟派な性格で、女性(特に若い女の子)に対してすぐ今度デートしよう、みたいな軽いことを口にしたりするのだけれど、作中、それは1度も実現していないし(1度実現しかけているけれど)、いま付き合っている彼女がいるのか(あるいは今までどれくらい女性と付き合ってきたのか)などについても、ほとんどわからないまま(偲ちゃん、私生活がけっこう謎?)。あ、全体的に性的な要素がほとんど(まったく?)ない小説でもあったかな。
「しのぶ」という名前じたい、女性でも使われるものだもんね(むしろその名前を聞けば、男性よりも女性を思い浮かべる人のほうが多い?)。新興ファッション・ブランド“kohaku!”の重要人物(本社・宣伝広報部の部長)である渡辺エスター(とエスター・諏訪)の「エスター」も、英和辞典でEsther(またはEster)を引いてみると「女性の名」と書かれている。日本人でいえば「しのぶ」に当たるものなのかもしれない(私にはよくわからないけれど)。渡辺は、偲に残したメモで彼のことを「S・内田」と記している(p.673)。「しのぶ」よりも「S(エス)」のほうが「エスター」にちょっと近くなる(だからどうした? という感じか(汗))。最後の最後、八丁堀という下町やゆるい会社を愛する偲くんは、渡辺(&諏訪)エスターよりも、同じ苗字の内田社長を選択している(!)。でも、偲に関しては、どうして今のような性格になったのか、もっと背景的な説明が欲しかったかな(ワタナベ・グループには興味を示してあれこれ調べているのに、最終的に渡辺サイドになびかなかったのは、なぜか? そういう性格だから、ということはわかるけれど)。――話を少し戻して、だから(?)この小説、BL(ボーイズ・ラブ)というよりは、男女間の垣根が低い、異性間の境界が曖昧なのかな? あ、この作中、偲ちゃんが行動する範囲はけっこう狭いのだけれど(東京都内の何箇所か)、登場人物には外国人やハーフの人も多くて、性別だけでなく、国籍(出身国)や人種(血)に関しても、間に垣根がないというか、多彩な感じになっている。さらに年齢というか、子ども/大人に関しても同じで、偲くんはにんじんが嫌いらしいし(子どもか! と突っ込みたくなる人も?)、会社近くのファミレスに行けば、いつも季節限定スイーツを気にしていたりもする(スイーツはむしろ大人?)。
名前といえば――名前に拘ってもあまり意味はないと思うけれど、『シーホース』という喫茶店が出てくる(@八重洲)。店内にはスキューバ・ダイヴィングのさいに撮影したという写真がたくさん飾られている(ガラスでもそうだけれど、世界=偲の行動範囲が狭いから人工的な奥行きを演出? …関係ないか。あ、「日比谷バベル」(の塔)は上方向というか、立体的? …意味不明か)。これも英和辞典を引いてみると、sea horse=「タツノオトシゴ、海馬」らしいけれど、要するに脳の海馬(かいば)とかかっているのかな? でも、「心理操作(の恐怖)」といっても、この小説では、マインド・コントロールとか洗脳とか、催眠術とかではなくて(広い意味では“脳がらみ”かもしれないけれど)、人々が潜在的に持っている悪意を発揮させる、人に犯罪的な行動をとらせる、みたいな話になっている。その後、ドミノ倒し(将棋倒し)的に次々と――このへん、もっと詳しく説明しないと意味がわからないか(汗)。「鶏口となるも、牛後となるなかれ」という諺があるよね(って関係ないか)、ペンギンの群れでは最初の1羽、羊の群れでは最後の1匹うんぬん、みたいな話は、読んでいて「へぇ~」とか思ったりもしたけれど。さらに羊の群れでは、狼が来たりしたとき、いちばん逃げ遅れた最後の1匹がその群れを守るために犠牲に。人間ならその1人が責任を取らされることに。ストレイ・シープ(stray sheep、はぐれた羊)ではなくて、スケープゴート(scapegoat、生贄の山羊)? そう、地元というか内田調査の近くにあって、偲ちゃんがよく行くらしい鴨料理店の名前が『ねぎや』。「鴨ねぎ」=「鴨が葱を背負ってやって来る」みたいなことになっている(汗)。あ、そういう動物たちだけでなく、いろいろな「色」についても触れたほうがいいのかもしれないけれど、…もういいや(汗)。ただ、タイトルの「赤い羊~」というのは、なんていうかちょっとすごい? もっと本が売れそうで、血なまぐさくない「ペンギン・ドミノ」や「ピンクの魚たち」のほうにしておけばよかったのにな、とも思わなくもない(というか、売れればいいってもんでもないか)。関係ないけれど、そういえば(名前といえば)「千葉千波」みたいな人が出てきたよな…、あ、三波水菜。死体となって発見される野川理香子(大学1年)がアルバイトをしていた「エド広告」の社員(20歳)。あまり似ていないか(「ちば・ちなみ」/「みなみ・みずな」)。
そう、読んでいて、登場人物がほとんどみんな(女性も含めて)偲に対して協力的なのは、ちょっとどうなのかな? とは思った(うーん…)。ま、偲ちゃんのキャラクター的に不自然ではないかもしれないけれど。――そういうことは措いておいて。もう本題というか、いつものように“小説中浪人生”について書いておかないと。駅前で3人のチンピラ風・不良風の男に囲まれていたお年寄りを助けて、逆にボコられていたところを、通りがかった偲&高さんに助けられた笙くん。人並みに正義感もあって「考えるよりも行動」な、まだあまり穢れていない純粋な若者という感じ? 空き缶や空き瓶のコントロール(チンピラたちに命中)を買われて偲から一緒に(野球ではなく)サッカーをやらないか、と誘われている。――勉強に忙しい浪人生を誘ったらあかん! とも思うけれど(この人の場合いちおう予備校にも通っているらしいし、アルバイトもしているし)、ま、でも、毎日ではないんだろうし、勉強の気分転換にもなるだろうし、体力も補えるかもしれないし、…かえっていいのかもしれない。浪人生の登場パターンとしては、時間的に自由な若者(のバリエーションの1つとしての浪人生)という感じ? ま、高校生なら学校に行かないと卒業できなくなるかもしれないけれど、浪人生なら予備校に行かなくても、卒業やら資格やらは関係ないし、いつでも自由に休める、昼間からふらふらしていてもOK…みたいな?(うーん…)。登場パターンとしては、あるいは、幼なじみ3人組で、理香子は大学生(何大学だっけ? どこかに書いてあったような…。国際江戸川大学…じゃないか(汗))、未紀(苗字は何だっけ? …ちゃんと読み返さないとわからないな)はOLで、男の子である笙くんだけが浪人生。18歳、19歳のいろいろな若者がいて、そのうちの1人としての浪人生、という感じもあるか。
笙くん、“kohaku!”(の1店舗)でアルバイトはしているけれど、そこの服は好きではないらしい(これは笙が偲サイドの人間であることを示している?)。幼なじみの未紀が偲に語るところによれば(pp.464-7)、笙の家は、いま会社がつぶれそうで両親(特に父親)が大変であるらしく、アルバイトは経済的な理由から(も)しているようだ。合格した私大はあったけれど、国立大学には落ちたそうで、どうやら来年また国立大学を受けるっぽい(でも、私大並みの(?)予備校代はどうにかなったんだよね? あと、お母さんは、息子が心配でときどき家に戻ってくるらしいけれど、偲&高さんに助けられた日の前後(「後」だけでもいいか)には、家に戻っていたのかな? 笙くん、菓子箱をお母さんに持たされた、と言って内田調査にお礼に来ている)。あと、笙くんは“kohaku!”本社に軟禁されてしまうのだけれど、それでは勉強どころではないか(あ、でも、参考書などを差し入れてもらえば勉強できないこともなかっただろうに)。服を着せられて…みたいなことは、意外と浪人生小説/小説中浪人生の定番かな(浪人生=何ものでもない、という前提が?)。そもそも、――少し引用させてもらえば、
<そろそろ七月も近い。受験ついて真剣に考えなければならない時期だが、笙はそれどころではなかった。両親は二年も浪人させる気はないと言っているし、笙もそこまでして大学に行きたいという気持ちはない。アルバイト三昧の毎日だが、それはそれで楽しい。/(略)/「僕は大学には行った方がいいと思うよ」/店の先輩であるケリーが言った。(略)>(p.372)
みたいなことも書かれている。個人的には、浪人になって(浪人1年目の)しかも7月頃が、<受験について真剣に考えなければならない時期>だとは思えない(汗)。とりあえず大学受験に関しては、高校時代に真剣に考えておかないとダメだよね。親の会社の経営不振も、昨日今日の話ではないだろうに。あ、高校卒業後に始めたアルバイトで、いままで視野に入っていなかった進路も見えてくるのか。
最後のへん、笙は太郎と仲良くなっているし、内田調査からは倖がいなくなって内田社長&偲だけになっているし、やっぱり微妙にBL小説?(違うか)。そう、最後のほう、高瀬家(小百合&晴夫の親子)に騙されていたことがわかった太郎くんが、人間不信になっていなければいいな、と思う。
<下町・八丁堀で働く内田偲は、単調だが平穏な日々を愛し楽しんでいた。だが街に少しずつ不穏な空気が流れ始め、犯罪が不自然なほど急増する。原因を探る偲が辿り着いたのは、人を思い通りに操ろうとする企みだった。金も力も組織もない若者は街を救えるのか? 心理操作の恐怖と人間の<愚かしさと愛しさ>を精緻に描く鮮烈エンターテインメント!>(表紙カバー後ろより)
東京の下町・八丁堀に事務所をかまえるリサーチ会社『内田調査』に勤めている“計数屋”の内田偲(しのぶ)。「会社」といっても、社員は社長を含めて3人しかいない。しかも、たまたま偲と同じ苗字をもつ社長の内田雅弘は、仕事に対する熱意がない感じだし、もう1人の従業員で社長と付き合っている矢上倖(さち)は、遅刻は当たり前、出社をしても化粧を直したりファッション誌を読んだり、入社以前からしているコンパニオンの仕事をまだやめていなかったりする。――こんなにゆっくり書いていると書き終わらないな(汗)。
読んでいて女性目線の箇所がまったくなかったような。主人公というか偲目線の箇所がいちばん多いのだけれど、それ以外の箇所も、すべて男性(/男の子)目線だったような…。視点担当が2番目に多いのは、いちおう浪人生の柳沢笙(しょう)か。ほかには、内田調査の下の階(1階)にある桐細工専門店『桐物語』の若旦那・太郎(苗字は宮崎)、あと内田社長目線の箇所もあるし、調査会社と同じフロア(3階)にある『三田ガラス』に勤める高(こう)さん(韓国出身の元Jリーガーで、偲は同じ草サッカーチームのメンバー)目線の箇所も少し、終盤のほうでは同じ三田ガラスで修業を兼ねたアルバイトをしている内海貴史も視点を担当――。若い男の子や精神年齢が若い男性ばかり? 要するに、微妙にうっすらBL小説?(違うか)。もう30歳は過ぎているけれど、拘束のゆるい自由な会社に勤めている偲は、会社のご近所の人たちからは愛されていて「偲ちゃん」と呼ばれたりもしている。社長と同じく軟派な性格で、女性(特に若い女の子)に対してすぐ今度デートしよう、みたいな軽いことを口にしたりするのだけれど、作中、それは1度も実現していないし(1度実現しかけているけれど)、いま付き合っている彼女がいるのか(あるいは今までどれくらい女性と付き合ってきたのか)などについても、ほとんどわからないまま(偲ちゃん、私生活がけっこう謎?)。あ、全体的に性的な要素がほとんど(まったく?)ない小説でもあったかな。
「しのぶ」という名前じたい、女性でも使われるものだもんね(むしろその名前を聞けば、男性よりも女性を思い浮かべる人のほうが多い?)。新興ファッション・ブランド“kohaku!”の重要人物(本社・宣伝広報部の部長)である渡辺エスター(とエスター・諏訪)の「エスター」も、英和辞典でEsther(またはEster)を引いてみると「女性の名」と書かれている。日本人でいえば「しのぶ」に当たるものなのかもしれない(私にはよくわからないけれど)。渡辺は、偲に残したメモで彼のことを「S・内田」と記している(p.673)。「しのぶ」よりも「S(エス)」のほうが「エスター」にちょっと近くなる(だからどうした? という感じか(汗))。最後の最後、八丁堀という下町やゆるい会社を愛する偲くんは、渡辺(&諏訪)エスターよりも、同じ苗字の内田社長を選択している(!)。でも、偲に関しては、どうして今のような性格になったのか、もっと背景的な説明が欲しかったかな(ワタナベ・グループには興味を示してあれこれ調べているのに、最終的に渡辺サイドになびかなかったのは、なぜか? そういう性格だから、ということはわかるけれど)。――話を少し戻して、だから(?)この小説、BL(ボーイズ・ラブ)というよりは、男女間の垣根が低い、異性間の境界が曖昧なのかな? あ、この作中、偲ちゃんが行動する範囲はけっこう狭いのだけれど(東京都内の何箇所か)、登場人物には外国人やハーフの人も多くて、性別だけでなく、国籍(出身国)や人種(血)に関しても、間に垣根がないというか、多彩な感じになっている。さらに年齢というか、子ども/大人に関しても同じで、偲くんはにんじんが嫌いらしいし(子どもか! と突っ込みたくなる人も?)、会社近くのファミレスに行けば、いつも季節限定スイーツを気にしていたりもする(スイーツはむしろ大人?)。
名前といえば――名前に拘ってもあまり意味はないと思うけれど、『シーホース』という喫茶店が出てくる(@八重洲)。店内にはスキューバ・ダイヴィングのさいに撮影したという写真がたくさん飾られている(ガラスでもそうだけれど、世界=偲の行動範囲が狭いから人工的な奥行きを演出? …関係ないか。あ、「日比谷バベル」(の塔)は上方向というか、立体的? …意味不明か)。これも英和辞典を引いてみると、sea horse=「タツノオトシゴ、海馬」らしいけれど、要するに脳の海馬(かいば)とかかっているのかな? でも、「心理操作(の恐怖)」といっても、この小説では、マインド・コントロールとか洗脳とか、催眠術とかではなくて(広い意味では“脳がらみ”かもしれないけれど)、人々が潜在的に持っている悪意を発揮させる、人に犯罪的な行動をとらせる、みたいな話になっている。その後、ドミノ倒し(将棋倒し)的に次々と――このへん、もっと詳しく説明しないと意味がわからないか(汗)。「鶏口となるも、牛後となるなかれ」という諺があるよね(って関係ないか)、ペンギンの群れでは最初の1羽、羊の群れでは最後の1匹うんぬん、みたいな話は、読んでいて「へぇ~」とか思ったりもしたけれど。さらに羊の群れでは、狼が来たりしたとき、いちばん逃げ遅れた最後の1匹がその群れを守るために犠牲に。人間ならその1人が責任を取らされることに。ストレイ・シープ(stray sheep、はぐれた羊)ではなくて、スケープゴート(scapegoat、生贄の山羊)? そう、地元というか内田調査の近くにあって、偲ちゃんがよく行くらしい鴨料理店の名前が『ねぎや』。「鴨ねぎ」=「鴨が葱を背負ってやって来る」みたいなことになっている(汗)。あ、そういう動物たちだけでなく、いろいろな「色」についても触れたほうがいいのかもしれないけれど、…もういいや(汗)。ただ、タイトルの「赤い羊~」というのは、なんていうかちょっとすごい? もっと本が売れそうで、血なまぐさくない「ペンギン・ドミノ」や「ピンクの魚たち」のほうにしておけばよかったのにな、とも思わなくもない(というか、売れればいいってもんでもないか)。関係ないけれど、そういえば(名前といえば)「千葉千波」みたいな人が出てきたよな…、あ、三波水菜。死体となって発見される野川理香子(大学1年)がアルバイトをしていた「エド広告」の社員(20歳)。あまり似ていないか(「ちば・ちなみ」/「みなみ・みずな」)。
そう、読んでいて、登場人物がほとんどみんな(女性も含めて)偲に対して協力的なのは、ちょっとどうなのかな? とは思った(うーん…)。ま、偲ちゃんのキャラクター的に不自然ではないかもしれないけれど。――そういうことは措いておいて。もう本題というか、いつものように“小説中浪人生”について書いておかないと。駅前で3人のチンピラ風・不良風の男に囲まれていたお年寄りを助けて、逆にボコられていたところを、通りがかった偲&高さんに助けられた笙くん。人並みに正義感もあって「考えるよりも行動」な、まだあまり穢れていない純粋な若者という感じ? 空き缶や空き瓶のコントロール(チンピラたちに命中)を買われて偲から一緒に(野球ではなく)サッカーをやらないか、と誘われている。――勉強に忙しい浪人生を誘ったらあかん! とも思うけれど(この人の場合いちおう予備校にも通っているらしいし、アルバイトもしているし)、ま、でも、毎日ではないんだろうし、勉強の気分転換にもなるだろうし、体力も補えるかもしれないし、…かえっていいのかもしれない。浪人生の登場パターンとしては、時間的に自由な若者(のバリエーションの1つとしての浪人生)という感じ? ま、高校生なら学校に行かないと卒業できなくなるかもしれないけれど、浪人生なら予備校に行かなくても、卒業やら資格やらは関係ないし、いつでも自由に休める、昼間からふらふらしていてもOK…みたいな?(うーん…)。登場パターンとしては、あるいは、幼なじみ3人組で、理香子は大学生(何大学だっけ? どこかに書いてあったような…。国際江戸川大学…じゃないか(汗))、未紀(苗字は何だっけ? …ちゃんと読み返さないとわからないな)はOLで、男の子である笙くんだけが浪人生。18歳、19歳のいろいろな若者がいて、そのうちの1人としての浪人生、という感じもあるか。
笙くん、“kohaku!”(の1店舗)でアルバイトはしているけれど、そこの服は好きではないらしい(これは笙が偲サイドの人間であることを示している?)。幼なじみの未紀が偲に語るところによれば(pp.464-7)、笙の家は、いま会社がつぶれそうで両親(特に父親)が大変であるらしく、アルバイトは経済的な理由から(も)しているようだ。合格した私大はあったけれど、国立大学には落ちたそうで、どうやら来年また国立大学を受けるっぽい(でも、私大並みの(?)予備校代はどうにかなったんだよね? あと、お母さんは、息子が心配でときどき家に戻ってくるらしいけれど、偲&高さんに助けられた日の前後(「後」だけでもいいか)には、家に戻っていたのかな? 笙くん、菓子箱をお母さんに持たされた、と言って内田調査にお礼に来ている)。あと、笙くんは“kohaku!”本社に軟禁されてしまうのだけれど、それでは勉強どころではないか(あ、でも、参考書などを差し入れてもらえば勉強できないこともなかっただろうに)。服を着せられて…みたいなことは、意外と浪人生小説/小説中浪人生の定番かな(浪人生=何ものでもない、という前提が?)。そもそも、――少し引用させてもらえば、
<そろそろ七月も近い。受験ついて真剣に考えなければならない時期だが、笙はそれどころではなかった。両親は二年も浪人させる気はないと言っているし、笙もそこまでして大学に行きたいという気持ちはない。アルバイト三昧の毎日だが、それはそれで楽しい。/(略)/「僕は大学には行った方がいいと思うよ」/店の先輩であるケリーが言った。(略)>(p.372)
みたいなことも書かれている。個人的には、浪人になって(浪人1年目の)しかも7月頃が、<受験について真剣に考えなければならない時期>だとは思えない(汗)。とりあえず大学受験に関しては、高校時代に真剣に考えておかないとダメだよね。親の会社の経営不振も、昨日今日の話ではないだろうに。あ、高校卒業後に始めたアルバイトで、いままで視野に入っていなかった進路も見えてくるのか。
最後のへん、笙は太郎と仲良くなっているし、内田調査からは倖がいなくなって内田社長&偲だけになっているし、やっぱり微妙にBL小説?(違うか)。そう、最後のほう、高瀬家(小百合&晴夫の親子)に騙されていたことがわかった太郎くんが、人間不信になっていなければいいな、と思う。
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