高橋三千綱 『少年期 「九月の空」その後』
2011年12月27日 読書
集英社、1992/集英社文庫、1996。なんとなく想像していたよりもずっと面白かったです。推理小説ではないけれど、※今回も以下、ネタバレ注意です。毎度すみません。
<多摩川の風を受け、剣道に打ち込む小林勇は16歳の夏を迎えた。京都、金沢への旅で出会った女性たち、そして東京のガールフレンド、それぞれの瞳が発する、それまで知らなかった陰影の深い力を、勇は正面から受けとめようと心に決める。芥川賞受賞作「九月の空」に続く、小林勇の新たなる出発を描く青春小説。>(文庫表紙カバー後ろより)
私は未読だけれど、『九月の空』(河出書房新社、1978/角川文庫、1979)は「五月の傾斜」、表題作、「二月の行方」の連作3篇。で、“その後”の本書は(書き出すのは面倒だけれど)、
「十六歳の夏、京都」
「金沢、斜め雪」
「鯉のぼり」
「東京の夏」
「姉の駆け落ち」
「古都の底冷え」
「青春の行方」
の連作7篇(「7篇」というか7章というか7話というか)。「あとがき」(単行本時のもの)を読むと、そうはっきりとは書かれていないけれど、この続編の初出誌は(『すばる』ではなくて)『小説すばる』であるようだ(いや、よくわからないけれど)。もしそうなら、芥川賞受賞作の続編なのに中間小説誌に?(受賞作収録本の文庫化もやけに早いな、丸1年経っていない。なぜ?)。
時間はとびとびで、主人公は、最初、高校2年生(夏休み前の試験休みに入ったくらい)で、最後は(ネタバレしてしまうけれど)受けた大学を落ちて浪人生に。はっきりと書かれている感じではないけれど、“女性遍歴”…というとニュアンスが違うか、えーと、“女の子めぐり”みたいな感じ…になっている。それぞれの女の子/女性の眼(瞳)が映し出す光などの意味(?)を読み取ろうとしたり…? そう、表裏の落差がいちばんありそうなのが、京都の女性?(出身地差別だな)。最初の1篇(第1章というか第1話というか)では、京都に行って(これもネタバレしてしまうか)「鶴の恩返し」ではないけれど、見てはいけないもの(?)を見てしまって、芸妓の豆つるさん(=洋子)にガブっとやられてしまう。――読んでいてけっこうびっくり(汗)。でも、いま思えば、その場面があったからこの小説、最後まで読もうと思ったのかもしれない。
ミステリ(推理小説)ではないけれど、伏線(というか)がけっこう多いし、逆に“後出し”してくることもあったりで…。ま、それはそれとして。そういえば最近、このブログ、下ネタばかり書いている気がするけれど(見返してみると…、それほど多くはないか)、で、えーと、真ん中の4篇目(=「東京の夏」)では(これもネタバレしてしまうけれど)いちおう勇くん、初エッ○というか。最近(といってもけっこう前か)読んだ小説、西澤保彦『黄金色の祈り』とか、あと樋口有介『海泡』でもそうだった気がするけれど(1つのパターンなのかな?)、この小説でも、年上の女性に馬乗りになられて勝手に動かれる…みたいなことに(汗)。それが残念な場合もあれば(あ、犯罪的な場合もあるか)残念ではない場合もあるかもしれない(よくわからないけれど)。具体的には、お姉ちゃん(=知子)がらみで知り合った美雪(苗字は水沢、高校2年生)の誕生パーティに呼ばれて、彼女の家へ。家は豪邸だったりするのだけれど、早く着きすぎて(小林少年、出かけるさいには基本的に計画性なし)プールサイドでワインをもらって飲んだりして、美雪の兄(「ケーオーボーイ」でテニスの合宿中@軽沢)の部屋を借りて休んでいると、ベッドで寝てしまい…。小人たちに縛りつけられたガリバーの夢なんかを見て、苦しくなって起きてみると、なんと下半身がいたずらされ中(汗)。
美雪の姉に最初、弟(美雪からいえば兄)と間違われたことに勇くん、寝ぼけていて気づいていないのかと思ったら、最後の1篇(=「青春の行方」)を読むとちゃんと理解していたことがわかる(ま、当然か)。要するに、この小説的には(?)実のお姉ちゃんと交わらせるわけにはいかないもんね、その代わりに近親相姦(といってもわりと明るいめ?)なお嬢様&お坊ちゃま姉弟の、弟の代役を務める(務めさせられる)ことになったのかもしれない。あ、勇のお姉ちゃんは21歳で3つ歳上?で、美雪のお姉ちゃんは国立女子大学の4年生とのことだから、もう1つ上かな。どちらも美人とのこと(小説だから「美人」ばかりなのもしかたがない(汗))。そう、だから(?)そこに至るまでの伏線(というか)も多いのだけれど、えーと、高校3年の夏休み(引退していても、本当は部活に参加して剣道がしたかったけれど、それは諦めて予備校に)、勇は予備校(@高田馬場)が終わると学校の教室に行くことにしていて、ある日(?)保健室から飛び出してくる男女を目撃したり(女の子のほうは泣きながら)、誕生パーティの当日は、朝、満員電車に乗っていると、ピンク色のワンピースを着たフィリピン人を思わせる美人にパンツの中に手を入れられたり…。
美雪宅というか水沢邸へ行く途中では、花屋で高校生くらいの女の子から300円ぶんのバラ(たぶん1965年、の物価です)を買うのだけれど、そのあと道を尋ねると、身ぶりというか手ぶりで教えてくれて、偶然、その子(霞草をおまけにつけてくれた、色白でおとなしそうな娘)の処理がされていない腋が見えてしまう。…話が逸れてしまうけれど、勇くんは、
<あわてて目をそらし、適当に礼をいって歩き出したが、曲がり角にくるまで胸はドキドキしていた。鬼の面が白昼不意に現われてきたような、そんな恐ろしさを感じていた。>(p.125)。
読んでいて「鬼の面が白昼…」ってずいぶんな(?)比喩だな、とか思ったのだけれど、このへんも伏線かもしれない。水沢邸=鬼が島、というわけではないけれど、「ガリバー」(場違いな巨人?)なら夢に出てくるし。パーティの最中、近寄ってきた美雪の姉は、あれは<「白昼夢よ」>と言って勇に口止めをする。――話を戻して(戻せるかな(汗))、水沢邸に早く着いてしまった勇は、門を入ってお手伝いさんとはすぐにはぐれ、プールサイドで、なんていうかトップレスな状態で日焼けをしていた美雪(大人っぽい美人だけれど、手紙のやりとりで高校2年生だとわかっている)の胸を見てしまう。これは、そのあと乗っかられることになる美雪のお姉ちゃんが、ブラウスを着たままなのと好対照というか、相互補完的な感じ?(妹&姉で1つの裸が完成?)。いずれにしても(保健室カップルの例を見ても)初めての○ッチの相手は、同じ高校生よりも、年上のお姉ちゃん的な存在のほうがいい、みたいな話?(違うか(汗))。で、十分に性に満ちた(?)この4篇目=「東京の夏」の次は、「姉の駆け落ち」。この5篇目以降は、実のお姉ちゃんからだんだんと独立していく?(それほどはっきりしているわけではないか…、よくわからない)。
いまでいう格差問題(貧乏人/金持ち、小林家のお父さんは稼ぎの悪い芸術家というか画家で、お母さんとお姉さんは働いているけれど、本人もアルバイトをしたりな、いちおう貧しい家庭)や人種差別の問題(同じ剣道部員で友達の金村のお姉ちゃん――お父さんは帰化した元朝鮮人――のエピソード)、あるいは「性と暴力」(勇は痴女?に会ったあと、見つけた痴漢を殴りつけている)とか、この小説、いろいろと詰まっているといえば詰まっているけれど、これ以上ぐだぐだ書いていてもしょうがないので(涙)省略して、本題に。最後の1篇(=「青春の行方」)、思っていたよりも試験のできがよく、合格間違いなしだと思っていたのに、掲示板に番号を見つけられなかった勇くん。受験していたのは(ケーオーではなくて)ワセダ。「大ぜい」というか同級生5人で見に行って、全員不合格(ま、そんなこともあるよね…)。5人のなかでは主人公がいちばん成績がよかったらしいけれど、なんだろう、例年よりも試験問題が易しかったのかな?(ほかの受験生もできがよかったのかもしれない)。――最後のへん、浪人生になった勇の前に再登場してくるのが、美雪の姉。後出しというか、ここにきて名前が「桜」であったことが読者にもわかる。「桜」/「雪」という名前の姉妹は、何かほかの小説でも出てきていたけれど、この小説では、「雪」のほうにだけ「美」が付いている。ま、それはそれとして、ダンスホールに連れて行かれた勇くん、なんだかんだで桜さんの平手打ちをかわして、逆に相手の頬を打つ(いちおう暴力だよね)――と、黒服たちからボコられてしまうのだけれど、要するにこちら方面でも「サクラチル」な感じになっている(桜だけではなく美雪に対しても、か。恐るべし格差社会? …違うか)。あ、「散る」というより自分で「散らせている」感じか。
大学受験に関しても伏線があるというか、最初からけっこう“浪人シフト”(浪人生になるのが既定路線)になっているかもしれない、この小説。本人も最初のほうでは、来年の春は(=現役では)大学は受験しない、みたいなことも言っているし。あと、人から、
<「へえ、老けて見えはるなあ。浪人生かと思うたわ」>(p.28、大野梓の台詞)
<「予備校って浪人の人がいくものだと思っていたけど、現役の人もいくのね」>(p.131、水沢美雪の台詞)
みたいなことも言われている(後者は“浪人シフト”とは関係ないか)。
進路や将来に対する悩み(?)とか、友人たちの話(特に金村くんの。1970年代や1980年代と比べると、やっぱり1960年代は、子どもを大学に行かせるのが経済的に大変な家庭が多い?)とか、短大を1年で中退して上京してくる(R大には合格)福井咲子のこととか(今後、桜は咲くのか?)、あとはトリックスターな(?)叔父さんのこととか――もういいや、すべて省略です(汗)。そう、大学に落ちたあと、勇は(人の多い繁華街を彷徨するのではなく)多摩川沿いを上流に向かって歩いている。でも、そのさい受験(の失敗)のことだけを考えているのではなく、歩行するにつれて記憶も遡行されているというか、家族の来し方について回想もされている(ま、小説の最後のあたりだしね)。
ちなみに作者は1948年早生まれ。上の小説のように高校3年のときに(日本の)大学は受験したのかな? よくわからないけれど(何かエッセイとかで書いているかもしれないけれど)、自筆年譜(『芥川賞全集』に付されたもの)によれば、1966年(18歳)の<七月、ハワイ大学夏期講習を聴講。九月、サンフランシスコ州立大学英語学科創作コースに入学>とのこと。翌年の1967年のところには、<留学生時代、ベビーシッター、皿洗い、観光ガイドのバイトなどで学費と生活費を稼ぐ。処女作ノンフィクション「ぶらり放浪記」を「高二コース」に両三度連載発表。>とある。――いまよりもずっと外国が“遠い”時代、なんていうかこの人、旅行好きというレベルは超えている? 高校を卒業後にハワイ、その後は本土の西海岸…。上の本の「あとがき」(単行本時のもの)によれば、40歳の誕生日は南極(!)で迎えているらしいし。
~・~・~・~・~・~・~・~
関係ないけれど、1967年といえば、竹内洋『立志・苦学・出世 受験生の社会史』(講談社現代新書、1991)によれば、<「蛍雪時代」が大判になり、カラーやグラビアを取り入れ、従来の黒っぽい受験雑誌のイメージを破ったのは、昭和42年4月号である。>(p.170、数字は原文では漢数字)とのこと。同じ旺文社から出ていた姉妹誌『高一時代』や『高二時代』、旺文社より軽いイメージのある(?)学習研究社(学研)の『高1コース』~『高3コース』ではどうだったんだろう?
そういえば(さらに関係のない話)、この前(といっても2ヶ月以上前かな)ここのブログが「高校2年生 学習雑誌」で検索(というか検索サイトから訪問)されていたけれど、いま(=2011年です)2年生だけに向けた学習雑誌ってないよね?(何かあるのかな?)。『大学への数学』(東京出版)って姉妹誌が出ていたっけ?(私はよく知らんです)。以前にも書いたけれど(小説を読んでもあまり「学習」にはならないと思うけれど)、赤川次郎の“悪魔シリーズ”は(何冊目までかわからないけれど、少なくとも最初の数冊は)もともと『高2コース』で連載されていたもの。あと、たまたま持っているのだけれど(“浪人”は関係がないし、別にこの手の小説本を集めているわけではないけれど)、天藤真『犯罪は二人で』(創元推理文庫、2001)に収録されている「推理クラブ殺人事件」の初出も、『高2コース』らしい(1976年7月号~9月号)。そう、高校2年生ってたいてい(16歳から)17歳になるんだよね。これもたまたま持っているのだけれど(ぜんぜん読んでいないけれど)、三浦綾子『石の森』(集英社文庫)は、もともと『セブンティーン』で連載されていたものらしい(1975年2月号~1976年2月号)。ま、だから(?)小説でよければ(古いものでもよければ)探せばいろいろと出てくるかもしれない、いまでも簡単に読めるものが。
<多摩川の風を受け、剣道に打ち込む小林勇は16歳の夏を迎えた。京都、金沢への旅で出会った女性たち、そして東京のガールフレンド、それぞれの瞳が発する、それまで知らなかった陰影の深い力を、勇は正面から受けとめようと心に決める。芥川賞受賞作「九月の空」に続く、小林勇の新たなる出発を描く青春小説。>(文庫表紙カバー後ろより)
私は未読だけれど、『九月の空』(河出書房新社、1978/角川文庫、1979)は「五月の傾斜」、表題作、「二月の行方」の連作3篇。で、“その後”の本書は(書き出すのは面倒だけれど)、
「十六歳の夏、京都」
「金沢、斜め雪」
「鯉のぼり」
「東京の夏」
「姉の駆け落ち」
「古都の底冷え」
「青春の行方」
の連作7篇(「7篇」というか7章というか7話というか)。「あとがき」(単行本時のもの)を読むと、そうはっきりとは書かれていないけれど、この続編の初出誌は(『すばる』ではなくて)『小説すばる』であるようだ(いや、よくわからないけれど)。もしそうなら、芥川賞受賞作の続編なのに中間小説誌に?(受賞作収録本の文庫化もやけに早いな、丸1年経っていない。なぜ?)。
時間はとびとびで、主人公は、最初、高校2年生(夏休み前の試験休みに入ったくらい)で、最後は(ネタバレしてしまうけれど)受けた大学を落ちて浪人生に。はっきりと書かれている感じではないけれど、“女性遍歴”…というとニュアンスが違うか、えーと、“女の子めぐり”みたいな感じ…になっている。それぞれの女の子/女性の眼(瞳)が映し出す光などの意味(?)を読み取ろうとしたり…? そう、表裏の落差がいちばんありそうなのが、京都の女性?(出身地差別だな)。最初の1篇(第1章というか第1話というか)では、京都に行って(これもネタバレしてしまうか)「鶴の恩返し」ではないけれど、見てはいけないもの(?)を見てしまって、芸妓の豆つるさん(=洋子)にガブっとやられてしまう。――読んでいてけっこうびっくり(汗)。でも、いま思えば、その場面があったからこの小説、最後まで読もうと思ったのかもしれない。
ミステリ(推理小説)ではないけれど、伏線(というか)がけっこう多いし、逆に“後出し”してくることもあったりで…。ま、それはそれとして。そういえば最近、このブログ、下ネタばかり書いている気がするけれど(見返してみると…、それほど多くはないか)、で、えーと、真ん中の4篇目(=「東京の夏」)では(これもネタバレしてしまうけれど)いちおう勇くん、初エッ○というか。最近(といってもけっこう前か)読んだ小説、西澤保彦『黄金色の祈り』とか、あと樋口有介『海泡』でもそうだった気がするけれど(1つのパターンなのかな?)、この小説でも、年上の女性に馬乗りになられて勝手に動かれる…みたいなことに(汗)。それが残念な場合もあれば(あ、犯罪的な場合もあるか)残念ではない場合もあるかもしれない(よくわからないけれど)。具体的には、お姉ちゃん(=知子)がらみで知り合った美雪(苗字は水沢、高校2年生)の誕生パーティに呼ばれて、彼女の家へ。家は豪邸だったりするのだけれど、早く着きすぎて(小林少年、出かけるさいには基本的に計画性なし)プールサイドでワインをもらって飲んだりして、美雪の兄(「ケーオーボーイ」でテニスの合宿中@軽沢)の部屋を借りて休んでいると、ベッドで寝てしまい…。小人たちに縛りつけられたガリバーの夢なんかを見て、苦しくなって起きてみると、なんと下半身がいたずらされ中(汗)。
美雪の姉に最初、弟(美雪からいえば兄)と間違われたことに勇くん、寝ぼけていて気づいていないのかと思ったら、最後の1篇(=「青春の行方」)を読むとちゃんと理解していたことがわかる(ま、当然か)。要するに、この小説的には(?)実のお姉ちゃんと交わらせるわけにはいかないもんね、その代わりに近親相姦(といってもわりと明るいめ?)なお嬢様&お坊ちゃま姉弟の、弟の代役を務める(務めさせられる)ことになったのかもしれない。あ、勇のお姉ちゃんは21歳で3つ歳上?で、美雪のお姉ちゃんは国立女子大学の4年生とのことだから、もう1つ上かな。どちらも美人とのこと(小説だから「美人」ばかりなのもしかたがない(汗))。そう、だから(?)そこに至るまでの伏線(というか)も多いのだけれど、えーと、高校3年の夏休み(引退していても、本当は部活に参加して剣道がしたかったけれど、それは諦めて予備校に)、勇は予備校(@高田馬場)が終わると学校の教室に行くことにしていて、ある日(?)保健室から飛び出してくる男女を目撃したり(女の子のほうは泣きながら)、誕生パーティの当日は、朝、満員電車に乗っていると、ピンク色のワンピースを着たフィリピン人を思わせる美人にパンツの中に手を入れられたり…。
美雪宅というか水沢邸へ行く途中では、花屋で高校生くらいの女の子から300円ぶんのバラ(たぶん1965年、の物価です)を買うのだけれど、そのあと道を尋ねると、身ぶりというか手ぶりで教えてくれて、偶然、その子(霞草をおまけにつけてくれた、色白でおとなしそうな娘)の処理がされていない腋が見えてしまう。…話が逸れてしまうけれど、勇くんは、
<あわてて目をそらし、適当に礼をいって歩き出したが、曲がり角にくるまで胸はドキドキしていた。鬼の面が白昼不意に現われてきたような、そんな恐ろしさを感じていた。>(p.125)。
読んでいて「鬼の面が白昼…」ってずいぶんな(?)比喩だな、とか思ったのだけれど、このへんも伏線かもしれない。水沢邸=鬼が島、というわけではないけれど、「ガリバー」(場違いな巨人?)なら夢に出てくるし。パーティの最中、近寄ってきた美雪の姉は、あれは<「白昼夢よ」>と言って勇に口止めをする。――話を戻して(戻せるかな(汗))、水沢邸に早く着いてしまった勇は、門を入ってお手伝いさんとはすぐにはぐれ、プールサイドで、なんていうかトップレスな状態で日焼けをしていた美雪(大人っぽい美人だけれど、手紙のやりとりで高校2年生だとわかっている)の胸を見てしまう。これは、そのあと乗っかられることになる美雪のお姉ちゃんが、ブラウスを着たままなのと好対照というか、相互補完的な感じ?(妹&姉で1つの裸が完成?)。いずれにしても(保健室カップルの例を見ても)初めての○ッチの相手は、同じ高校生よりも、年上のお姉ちゃん的な存在のほうがいい、みたいな話?(違うか(汗))。で、十分に性に満ちた(?)この4篇目=「東京の夏」の次は、「姉の駆け落ち」。この5篇目以降は、実のお姉ちゃんからだんだんと独立していく?(それほどはっきりしているわけではないか…、よくわからない)。
いまでいう格差問題(貧乏人/金持ち、小林家のお父さんは稼ぎの悪い芸術家というか画家で、お母さんとお姉さんは働いているけれど、本人もアルバイトをしたりな、いちおう貧しい家庭)や人種差別の問題(同じ剣道部員で友達の金村のお姉ちゃん――お父さんは帰化した元朝鮮人――のエピソード)、あるいは「性と暴力」(勇は痴女?に会ったあと、見つけた痴漢を殴りつけている)とか、この小説、いろいろと詰まっているといえば詰まっているけれど、これ以上ぐだぐだ書いていてもしょうがないので(涙)省略して、本題に。最後の1篇(=「青春の行方」)、思っていたよりも試験のできがよく、合格間違いなしだと思っていたのに、掲示板に番号を見つけられなかった勇くん。受験していたのは(ケーオーではなくて)ワセダ。「大ぜい」というか同級生5人で見に行って、全員不合格(ま、そんなこともあるよね…)。5人のなかでは主人公がいちばん成績がよかったらしいけれど、なんだろう、例年よりも試験問題が易しかったのかな?(ほかの受験生もできがよかったのかもしれない)。――最後のへん、浪人生になった勇の前に再登場してくるのが、美雪の姉。後出しというか、ここにきて名前が「桜」であったことが読者にもわかる。「桜」/「雪」という名前の姉妹は、何かほかの小説でも出てきていたけれど、この小説では、「雪」のほうにだけ「美」が付いている。ま、それはそれとして、ダンスホールに連れて行かれた勇くん、なんだかんだで桜さんの平手打ちをかわして、逆に相手の頬を打つ(いちおう暴力だよね)――と、黒服たちからボコられてしまうのだけれど、要するにこちら方面でも「サクラチル」な感じになっている(桜だけではなく美雪に対しても、か。恐るべし格差社会? …違うか)。あ、「散る」というより自分で「散らせている」感じか。
大学受験に関しても伏線があるというか、最初からけっこう“浪人シフト”(浪人生になるのが既定路線)になっているかもしれない、この小説。本人も最初のほうでは、来年の春は(=現役では)大学は受験しない、みたいなことも言っているし。あと、人から、
<「へえ、老けて見えはるなあ。浪人生かと思うたわ」>(p.28、大野梓の台詞)
<「予備校って浪人の人がいくものだと思っていたけど、現役の人もいくのね」>(p.131、水沢美雪の台詞)
みたいなことも言われている(後者は“浪人シフト”とは関係ないか)。
進路や将来に対する悩み(?)とか、友人たちの話(特に金村くんの。1970年代や1980年代と比べると、やっぱり1960年代は、子どもを大学に行かせるのが経済的に大変な家庭が多い?)とか、短大を1年で中退して上京してくる(R大には合格)福井咲子のこととか(今後、桜は咲くのか?)、あとはトリックスターな(?)叔父さんのこととか――もういいや、すべて省略です(汗)。そう、大学に落ちたあと、勇は(人の多い繁華街を彷徨するのではなく)多摩川沿いを上流に向かって歩いている。でも、そのさい受験(の失敗)のことだけを考えているのではなく、歩行するにつれて記憶も遡行されているというか、家族の来し方について回想もされている(ま、小説の最後のあたりだしね)。
ちなみに作者は1948年早生まれ。上の小説のように高校3年のときに(日本の)大学は受験したのかな? よくわからないけれど(何かエッセイとかで書いているかもしれないけれど)、自筆年譜(『芥川賞全集』に付されたもの)によれば、1966年(18歳)の<七月、ハワイ大学夏期講習を聴講。九月、サンフランシスコ州立大学英語学科創作コースに入学>とのこと。翌年の1967年のところには、<留学生時代、ベビーシッター、皿洗い、観光ガイドのバイトなどで学費と生活費を稼ぐ。処女作ノンフィクション「ぶらり放浪記」を「高二コース」に両三度連載発表。>とある。――いまよりもずっと外国が“遠い”時代、なんていうかこの人、旅行好きというレベルは超えている? 高校を卒業後にハワイ、その後は本土の西海岸…。上の本の「あとがき」(単行本時のもの)によれば、40歳の誕生日は南極(!)で迎えているらしいし。
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関係ないけれど、1967年といえば、竹内洋『立志・苦学・出世 受験生の社会史』(講談社現代新書、1991)によれば、<「蛍雪時代」が大判になり、カラーやグラビアを取り入れ、従来の黒っぽい受験雑誌のイメージを破ったのは、昭和42年4月号である。>(p.170、数字は原文では漢数字)とのこと。同じ旺文社から出ていた姉妹誌『高一時代』や『高二時代』、旺文社より軽いイメージのある(?)学習研究社(学研)の『高1コース』~『高3コース』ではどうだったんだろう?
そういえば(さらに関係のない話)、この前(といっても2ヶ月以上前かな)ここのブログが「高校2年生 学習雑誌」で検索(というか検索サイトから訪問)されていたけれど、いま(=2011年です)2年生だけに向けた学習雑誌ってないよね?(何かあるのかな?)。『大学への数学』(東京出版)って姉妹誌が出ていたっけ?(私はよく知らんです)。以前にも書いたけれど(小説を読んでもあまり「学習」にはならないと思うけれど)、赤川次郎の“悪魔シリーズ”は(何冊目までかわからないけれど、少なくとも最初の数冊は)もともと『高2コース』で連載されていたもの。あと、たまたま持っているのだけれど(“浪人”は関係がないし、別にこの手の小説本を集めているわけではないけれど)、天藤真『犯罪は二人で』(創元推理文庫、2001)に収録されている「推理クラブ殺人事件」の初出も、『高2コース』らしい(1976年7月号~9月号)。そう、高校2年生ってたいてい(16歳から)17歳になるんだよね。これもたまたま持っているのだけれど(ぜんぜん読んでいないけれど)、三浦綾子『石の森』(集英社文庫)は、もともと『セブンティーン』で連載されていたものらしい(1975年2月号~1976年2月号)。ま、だから(?)小説でよければ(古いものでもよければ)探せばいろいろと出てくるかもしれない、いまでも簡単に読めるものが。
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