同名書(講談社、2008/講談社文庫、2011.10)所収。手もとにあるのは文庫版。また地元小説を読んでみる。<自分は醜いというコンプレックスを抱く野枝は、実家を出て群馬県のローカルFM局で人気番組を担当するようになる。誰からも干渉されない自由に閉じ籠もる野枝だが、その心の隙に気さくな方言で話す女医の沢音が入り込み……。横浜と会津出身の二人の女性の呼び合う心を描く「うつくすま ふぐすま」を併録。>(表紙カバーより)。

ご当地小説というと都道府県単位で整理されがちだと思うけれど、例えば同じG県であっても地域によってぜんぜん違うわけで、そういう意味では、主人公が県内(たぶん全域)向けラジオ放送局に勤めている(勤め始める)アナウンサーであるこの小説は、それこそ、ザ・ご当地小説といえるかもしれない。ただ、主人公の相馬野枝(のえ)は、中心となってリスナーたちに対してタクトを振るうような感じではないし、一部のリスナー同士は(県内にただ点在しているのではなく)直接、ある種のつながりを持っていたりすることも、読んでいるとわかってくる。あ、もちろん、読んでいるときには主に主人公の感情や心理を追っていたのだけれど(それほどおかしな読み方はしていないと思う)、個人的にはどうしても、場所や特産物(野菜とか)、言葉なんかに対してもいちいち反応してしまって…。

この作者が自然なG弁を使える(小説に書ける)ということは、以前「第七障害」(『イッツ・オンリー・トーク』所収)を読んだときにわかっていたけれど、この小説でもナチュラルなG弁(J弁)が増量されている感じで、なんていうかおー、すごいなぁ、と思えたりした(…毎度ボキャ貧ですみません)。地元県民としては、文字情報だから、頭の中でほぼ正しいイントネーションで読める(再生できる)ということが、ちょっと利点かな。そういえば、読んでいて最後のほう、医者の沢音(さわね、苗字は狩野)が口にする<おっかおっかいやつ>(p.137)という言葉の意味が、自分には一瞬わからなくて。おっか=おおか、おっかい=おっかない、で、かなり怖いやつ(DVD)みたいな意味?(あーねー、という感じ)。沢音さんが主人公に対して使うG弁は、ちょっと子どもっぽいかもしれない(性格のせいもあるのか、あまり似ていないと思うけれど、読んでいて谷川流<涼宮ハルヒシリーズ>の鶴屋さんを連想したりした)。

あとは、県民性――以前、日本が舞台で主人公が外国人に日本(東京など)を案内している小説を読んだことがあるけれど、個人的にはそれと同じような読み心地(?)だったかもしれない。東京都出身(大学卒業後は仙台のFM局に10年)の野枝に対する、ディレクターの石田(M市出身、G弁は使わない)やリスナーの1人・恐妻センター前橋(ラジオネーム)のG県をお薦めするような振る舞いは、読んでいてちょっと恥ずかしくなってくる部分も…。センターさんは、定番アイテムの『J毛カルタ』をプレゼントしたりしている。そう、逆に自分の場合、かなり出不精だし(友達もいないし)、もちろん知識としても知らないことも多いので、読んでいて(再発見ではなく)少し勉強にもなったりした。あと、どうでもいいけれど、あるリスナーからのメールに書かれている、10年前の浪人中に聴いていたという番組の担当者=<イシマル? イシモリ?>(p.75)といううろ覚えな人物は、石田さんのこと?(違うか)。

会社(「JOSHU-FM」)があったり、野枝や沢音(K市出身)が暮らしたりしているT市は無視して(なぜ無視していいのかといえば、私はM市周辺出身でいまはM市在住だからです(汗))M市については、<こんなにさびれた県庁所在地がどこにあるだろう。>(p.123)とのこと。個人的にはあまり笑えないし、主人公はコンプレックスとも関連して、なんていうか街(中心商店街あたり)と同化している様子だけれど――、でも、私も昼間の誰もいなそうな時間帯のH川沿い(けっこう薄暗い)で、今度コンビニで買ったパンでもしんみりと食べてみようかな。(以前にも書いたような気がするけれど、アーケードなB通りを出たところにある橋の上からのH川(狭い川)の眺めが、個人的には昔から好きなんだよね。Jパーキング/M文学館のへんよりも水面が近くない? …同じくらい? どちらでもいいけれど、特に雨上がりの、流れが速くて水があふれそうな感じの時がお薦め。落ちたらたぶん助からないと思う。)
 

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索