新潮社、1986/新潮文庫、1989。手もとにあるのは文庫版。副題ではないけれど、表紙の上のほうに小さめに「New grounds for living」とある(生きるための新しい根拠?)。読み終わってから(別の本で)知ったのだけれど、最後の「第五楽章」はあとから書かれたものらしい(芥川賞の候補になった部分は「第四楽章」まで?)。

 <人間ってのは、みんな未完成な模造品だね、誰もが誰かを演じてる――出来合いの「青春」を舞台にのせてドラマチックに演じきることを夢み、ついには、演技する自分を茶化すことにすら情熱を傾けてしまう永遠の青二才・亜久間一人。捉えどころのない「現代」をたくましく生き抜く自意識過剰な夢想的偽悪少年の、明るくねじれた自我の目覚めと初々しい愛と性の大冒険。新時代の青春文学。>(「たくましく」に傍点、カバー背より)

文学系の小説、例によって私には意味がわからんかったです(涙)。庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』に対しても思うけれど、こういうのなら、むしろ論文調で(評論として)書いてもらったほうが、個人的には理解できるかもしれない。でも、なんていうかある種のユーモアがあって、(何が言いたいのやらわからないながらも)面白いと思える部分もけっこうあったです。ボールのように持ち去られた頭部を胴体が追いかける夢の話とか、“バベルの塔”に登っていく夢の話とか(思い出せないけれど、夢以外の話でも)。そういえば、かなり外国(というかヨーロッパ)文学っぽい? 童話とかも出てくるし。あ、あと“三島由紀夫”も出てくるか。私は『仮面の告白』どころか、1冊も読んだことがないんだよね、三島作品(涙)。ある種の青春小説――的な部分も、この小説ではパロディ化されているかもしれないけれど、初恋(?)とか、オ●ニーやらセッ●ス(というか初体験)やらのことなども書かれている。ときどき(けっこうな頻度で?)なんていうか“まとめのポエム”が挟まっている(「詩」というより、ジャポン語で言うところの川柳っぽい?)。青春小説でときどき見かける、ギターを抱えて自作の歌を歌ってしまうのと同じようなもの?(違うか)。――時間的には1章(1楽章)ずつ、律儀に進んでいく感じで、「第一楽章」が生まれる少し前から小学校時代(父親の転勤で5年間東京を離れたり)、「第二楽章」が中学校時代、「第三楽章」が高校1・2年(山岳部)、「第四楽章」は高校3年を途中で中退して大学1年くらいまで。最後の「第五楽章」は“山岳小説”みたいことになっている(山登りというか、危険なロック・クライミング)。

「僕」(=いちおう名前は亜久間一人、読み方は「あくま・かずひと」)が高校を中退した理由は、何か問題を起こしたとかがもともとのきっかけではなく、

 <高校三年生、僕は人生十八年目にして、さなぎになってしまった。高校時代最後の憶い出に中退してみた。両親とは大喧嘩になり、弟からはバカだバカだといわれ続けた。教師も再三、無責任に僕を学校に引き留めた。>(p.133)

という感じ。記念中退…という言葉はないか。最近の高校なら(あ、「僕」は1960年生まれ)生徒が学校をやめたいと言い出しても、教師はあまり引きとめなそうな気もするけれど。あ、「僕」が通っている(いた)のは、<一流といわれる高校>(p.86)らしいので、中退者が1人でも多いと学校の看板に傷がつく…みたいな理由もあるのかな?(違うか)。正式な退学が夏休み明けで、(ネタバレしてしまうけれど)翌年の7月には大検(大学入学資格検定)を受けて合格。さらに翌年の3月には大学に合格。以前にも書いたような気がするけれど、大検(現在なら高認)が絡んでくると「浪人」と言ってもいいのかがよくわからなくなるんだよね…。別にレッテルはどうでもいいか。山岳部のトレーニングをしている「僕」の姿を遠くから見つめる謎の女=酒井ちづる(同学年、不思議キャラ)のほうは、ふつうに浪人生になっている(だからこの小説は“浪人生が出てくる小説”であるといえる)。「僕」は中退したあと、ちづるに月1回会ってくれるように頼んで、会っている(第二日曜日)のだけれど、――次の場面はなんとなくちょっとよかったかな、

 <さて、逢い引きの方はというと、二月は中止された。ちづるの私大の入試と重なったからだ。三月の逢い引きでは僕が彼女の慰め役になった。うなぎをおごるからとアサクサの有名な店に誘い、こういった。/「現役で合格したくなかったんだろ。僕と同じじゃないか」/「わたし、現役で合格したくありませんでした」と彼女は繰り返した。僕はちづるの落胆をおいしく食べ、ちづるは僕のように狡猾になった。うなぎは黙って二人に食われた。>(p.139)

同じ言葉を繰り返しているあたり、不合格がかなりショックだったのかな? 恋人…ではなくて、自分に(よくわからないけれど)好意を持っているらしい相手を慰めるのに、うなぎ屋――ってどうなのかな?(ちょっと微妙?)。鰻の肝吸いをすすりながら、相手の“落胆”をおいしく食べる――ま、どうでもいいか(汗)。でも、下手な慰めの言葉よりも、なんか元気が出そうな食べ物でもおごってもらったほうがましかもしれないね(人にもよるだろうし、落胆の理由や仕方にもよるだろうけれど)。2人は4月からは同じ予備校に通っていて、でも、月に2回しか会っていなかったようだ(でも、いつの間にやら月1から月2に増えている?)。大学には翌年、2人とも合格。ちづるさんのほうは、<トキオ郊外にある何とか女子大の教育学部>(p.145)。


[追記]作者は1961年早生まれ。1979年にS台。1浪→東京外大。
 

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

この日記について

日記内を検索