角川書店、2003/角川文庫、2009.3。手許にあるのは文庫版。薄めの本(本文の最後は158ページ)。長篇というより中篇? 意外とお薦めな小説かもしれない(浪人生よりは高校生に、かな)。

 <進路調査に「犬になりたい」と書いて呼び出しをくらった知世子。彼女が幼稚園年長組の夏休み、家族旅行の道中で事故に遭い、母は帰らぬ人となった。「死にたい」「殺されたい」、からっぽの心に苛立ちだけがつのる高校2年生の夏、映画研究会OBである正岡の強引な誘いで、彼が構えるカメラの前に立つことに。レンズの向こう側へあふれるモノローグが、こわばった心を解き放つ。ゆるやかに快復する少女を描いた珠玉の青春小説。>(表紙カバーより)

真面目な(?)内容なので(微妙にユーモアもある小説だけれど)、「犬になりたい」発言は、この小説的には突っ込みどころではないと思うけれど、最近(個人的に)読んだばかりの、竹宮ゆゆこ『わたしたちの田村くん』(~2、電撃文庫)では「故郷の星に帰る」だったし、――もしかして小説では進路調査書は大喜利なのか?(担任教師は歌丸さんか?)。それはそれとして、全体的な感想としては、けっこう面白かったというか、けっこう良かったです(あいかわらずのボキャ貧…(涙))。思えば、久しぶりにこういう青春小説…というか、思春期小説みたいなもの(?)を読んだ気がする。そう、今年(2012年)の1月くらいだったか、TVで深夜に映画『包帯クラブ』の再放送(再々々放送くらい?)していたのを、たまたま観ていたのだけれど、読んでいてそれとちょっと似ている気がした(あ、いや、冷静に考えればそれほど似ていない…かな。内容だけでなく、深夜に1人で青春映画を…みたいなことも含めて、自分にはちょっと既視感が)。そう、以前読んだ同じ作者の『青いリボン』(理論社、2006→小学館文庫)よりも、こちらのほうがわかりやすかったと思う。主人公の「私」(=いちおう宮永知世子)が周りの人たちに対して苛々をぶつけていているし、その苛々の理由や原因も(読者には)わりとはっきりしているから、かな。ビデオカメラの前で虚々実々なフリートーク(誰かを演じてもいいし、演じなくてもいいし)というのは、心理カウンセリングのような効果が?(…つまらないことを言ってしまったか(汗))。

現在は2年生の部員が2名だけで、このままでは来年には廃部になってしまう映画研究会に「私」はいちおう所属している(「私」ではないほうの三橋智が部長)。去年の3年生たちは、引退後も(というか引退せずに)部室=視聴覚室に入り浸っていて、大学受験は全員、成績は悪くなかったのに不合格だったらしい(そのせいか今年の3年生たちは、ほとんど視聴覚室に姿を現さない)。「私」が学校の近くのレンタルビデオ屋の前で再会した先輩=正岡正宗はそのうちの1人。――高校生が何か心に(?)問題を抱えていて、同じように心に(?)問題を抱えている浪人生と出会う、ということでは、(再会ではないし、女子高生だけれど)藤野千夜「恋の休日」(同名書所収、講談社、1999→講談社文庫)とちょっと似ているかな。そういえば、高校生(女子でも男子でも)が男子浪人生と出会う、みたいな小説は見たことがあるけれど、高校生が女子浪人生と出会う、というパターンは今までに見たことがない気がする(何かすっかり忘れているかもしれないけれど。あ、そもそも女子浪人生は小説にはあまり出てこないし)。――こんな箇所がある。先輩のうちにて、

 <「なんですか、これ」/「おれが撮った。言ってみれば浪人生の日記だな」/ざっくりと彼が答えた。/「これ、どこですか」/「知らない。バイクで適当に出かけていった場所だから」/「バイク」/「いいだろ。浪人生って」/「そんなことしてたら、また大学落ちますよ」/「大学? きみは行くの?」/「行くの、って、先輩は行かないんですか?」/「めざすは永久浪人」/「永久浪人」/「なんだよ、文句ある?」/「どうかしたんですか、いらいらしてる」/「いらいら大王のきみに言われたかないね」/(略)>(pp.61-2、「/」は改行の意味)

映像であると「日記」というより「記録」? “浪人生小説”では定番、オートバイに乗っている浪人生。「永遠の浪人生」という言葉は、あれこれ本を読んでいると、ときどき見かける気がするけれど(特に庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』がらみで)、「永久浪人」という言葉は今回、初めて見た気がする。というか、これでは(こんなことを言っているようでは)この人も、「浪人生」(「大学受験浪人」)と呼んでいいのかいけないのか問題が生じてしまう感じ(小説ではありがちな中途半端設定?)。ま、いずれにしても、大学受験よりも大事なことは、実際には(現実には)いくらでもあるからね、別にそれでいいのかもしれない(経済的な問題がクリアされていれば)。でも、この正岡くん、秋以降ちゃんと受験勉強を始めていたりして(汗)。もともと成績は悪くなかったわけだし、翌年、大学にはするっと合格?

内容とは関係のない話ばかり書いてしまったけれど(すみません)、けっこういい小説だと思うので(短いものだし)個人的にはお薦めです。
 

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