新潮社、1995/新潮文庫、1998。手もとにあるのは文庫版。この本には書かれていないけれど(別の本によれば)もともと『小説新潮』で連載されていたもので、連載開始は1992年9月であるらしい。雰囲気というか「気配」というか、基本的にほのぼのした小説かもしれない(それほどでもないか)。空いている時間にだらだらと読んでしまったけれど、この手の小説、毎晩、寝る前に少しずつ読めばよかったかな…。いい意味でも悪い意味でもぬるま湯的というか。そう、読んでいて何度か「何それ?」とツッコミを入れてしまったことも(汗)。主人公の性格がちょっと変?

 <工業デザイナーを目ざす私、昆虫に魅入られた写真家のロバ、不安神経症を乗り越え、医者を志す愛子、美容師として活躍する曜子。偶然一つのマンションで暮らすことになった四人は、共に夢を語り、励ましあい、二組の愛が生まれる。しかし、互いの幸せを願う優しい心根が苦しさの種をまき、エゴを捨てて得た究極の愛が貌を変えていく……。無償の青春を描く長編小説。>(表紙カバーより)

いま流行りのルームシェアリングかもしれないけれど、「私」によって語られているのは主に1980年初夏から1982年春までの2年間のこと(2013年の現在からいえば30年くらい前)。会社で照明器具のデザインの仕事をしていて、独立も考えている「私」(=北尾与志、静岡出身・31歳)は、ダメモトというか<ひやかし半分に>応募した、76倍もの倍率の公団住宅の抽選に当たる。都心にある高層マンションの最上階の16階。そこにまず、大学時代からの友人で写真家のロバ(=佐竹専一、新潟出身・31歳)が転がり込んできて、さらに知り合ったばかりの女性2人組――六本木の美容室に勤める曜子(=荻野曜子、両親は高崎に・27歳)と不安神経症を抱えていて、セメント会社の総務部で働いている愛子(=柴田愛子、生まれは大阪…だっけ?・27歳)も一緒に暮らすことになって…、みたいな話。ルームのシェアぐあい(部屋の分割状況)は、でも、「私」(みんなからは「与志くん」と呼ばれている)と愛子、ロバと曜子がそれぞれカップルになってしまって、寝たりするのは同じ部屋。(というか、考えてみたらルームシェアが一般的にどういうものなのか、私は知らないな(汗)。)

そういえばご近所付き合いとか、ごみ出しとかはどうなっているのかな?(どうでもいいか、そんなことは(汗))。それぞれが家族や仕事などで問題を抱えていたり、何か急にトラブルが起きたり…。あと一応、2組の恋愛がどうなるか、が気になって読み進む感じ(別に気にならないかな…)。<無償の青春>というかは、誰かが(正確にいえば「私」以外か)お金が必要になって、お互いに預金を下ろしたり、借金をしたりして工面している。あ、でも、お金がなくなっても、食べるものに困っているようには見えないし、貧乏くさくはなっていない(出てくる食べ物は庶民的なものが多くて、そういうところでも、あたたかみが感じられる小説かも)。会社を辞める(辞めたあとの)愛子以外の3人は、ずっと収入はちゃんとしている…んだっけ? あ、個人事務所を開いている写真家のロバは、不安定な感じか。

ロバが言い出しているのだけれど、「私」や曜子もそれに同調して――要するにみんなから勧められて、愛子(日ごろ難しい本を読んだりしている)は、精神科医になるために大学の医学部を目指すことに。彼女には、昔(そんなに昔ではないか)「京都の大学」の理学部に合格したものの、経済的に許されなくて入学を諦めた過去もある(「私」は同じ大学の工学部を受けて落ちているらしい)。それで(ネタバレしてしまうけれど)受験の結果は、第1志望の国立大学には落ちて、第2志望の私立大学に合格。入学金など、「私」(たち)はすでに借金が多くなっていて、用立てるのにまた苦労しているのだけれど、でも、それはどうにかなって愛子さん、その私大に入学。受験勉強中の生活は――引用しておくと、

 <愛子の勉強部屋は、私たちの寝室だった。(略)/夜中の二時に勉強を終え、それから風呂に入って、愛子は私のベッドにもぐり込んでくる。そして、朝の七時に目を醒まし、みんなの朝食を作ると、歩いて予備校へ行き、昼の三時まで授業を受け、夕食の買い物をして帰宅し、二時間ほど昼寝をする。目を醒ますと、すぐに夕食の準備にとりかかり、それを済ませて夜の九時まで参考書や試験問題に取り組み、一時間ほど休憩してから、再び受験勉強に没頭するのだった。愛子が予備校に通い始めた日から、その一日の時間割りは狂うことがなかった。>(p.85)

という感じ。受験生の参考になるかな?(たいしてならないか)。でも、勉強って(勉強にかぎらないかもしれないけれど)やっぱりリズムとかテンポとかって大事だよね。ある種の規則正しさ…というか。問題を解いたりする場合でも、リズムがいいとたぶん作業(勉強)効率が上がる。予備校が歩いていける距離にある――というのは、近くてうらやましいと思う予備校生も多い?(愛子さんの場合、電車に乗ると不安神経症の発作が起こりやすくなって、だからあまり電車に乗れない)。

あとこの小説、時代的に模擬試験(p.94)とか、覚えなくてはいけない英単語の数(p.137)とか、読んでいてリアリティがあるのかないのかよくわからない箇所もある(個人的にはないような気がする)。そう、愛子は予備校では周りから「おばさん」と呼ばれているらしい(pp.94-5)。なんていうか、大学再受験生、大学社会人入学の人はそういう言葉(あるいは無言の目線)にも耐えないといけない? でも、本人の性格によるところもけっこう大きいかな(気にならない人は気にならない?)。愛子さん、2浪の男の子にナンパされた(映画に誘われた)とも言っている。7つくらい上なら余裕でストライクゾーン! みたいな20歳くらいの男子も多い?(よくわからないけれど)。彼氏である「私」は、<「(略)その小僧、予備校でナンパしようなんて魂胆だから、二浪もするんだよ。ふざけた野郎だ」>(「ナンパ」に傍点、p.95)と怒っている。1980年って例の「金属バット殺人事件」が起きた年だから(11月?)、浪人生、むしろ少しくらい軟派な性格のほうが、何か重大な事件を起こさなくていいかもしれない。

えーと、なんだか、ぜんぜんちゃんとした感想が書けていないな(今日も泣きを入れておきたいです(涙))。そうだ、あと、最後のほうでひきこもり中の青年(高知の釣り客向けの旅館の息子)が、「私」(失恋傷心旅行中)がきっかけになって部屋から出てくる、みたいな話もある。そういえば“ルームシェア小説”かもしれないけれど、全体的に部屋のなかで閉じている感じはしなかったな。というか、部屋の中ばっかり小説なんて、あまり存在しないか(汗)。
 

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