角川ホラー文庫、2001。タイトル(書名)はちょっと差別用語っぽい? わからないけれど(あ、わからないからこそ)私には差別的な意図はありません。全体的に意外と(なんとなく期待していたよりも)面白かったです。でも、うーん…、この小説もネタバレさせずに何か言えそうな気がしない(涙)。すみません、※以下、まだ読まれていない方はご注意ください

 <「私は母に殺されたの」/ミステリー作家の丹野は妻・怜子から奇妙なことを言われる。死ぬ間際に育ての親が怜子に言い残したという謎の言葉の意味を探るうちに三十年前のバス事故にたどりつく。触れてはいけない過去。/そして最後に彼が見つけた衝撃の真実とは――!?/死者を見る能力をもつ不思議な男が結ぶ四つの物語。生者と死者の憎しみとエロスを描いた血迷う人々[フランティック]の連作短篇集。>([カッコ]はルビ。表紙カバー後ろより)

連作といえば連作。各章(各話)には題名がなくて、その代わりなのか、それぞれの章の扉のページでは、Ⅰ~Ⅳの数字の下にスペードのA、ハートの2、クラブの3、ダイアの4というトランプの絵が描かれている。最初のⅠは上の説明のようにわりとミステリーっぽい。あまり詳しく説明しても意味がないかもしれないけれど、Ⅰの最初、Ⅱの最初と最後、Ⅲの最後に、霊的なものが視える高沢俊也(会社に勤めるコンピューターのプログラマー)目線の箇所が挿入されている。で、最後の話=Ⅳではその高沢が視点を担っている。ⅠとⅣは男性目線だけれど、いずれにしても、4つの話すべて女性の心理が描かれている…という感じかな。そう、個人的にはⅠとⅣとで、ちょっと辻褄が合っていないように感じた(ちゃんと読み直してみないとわからないけれど)。

Ⅱも女性2人が出てくるのだけれど、Ⅲでは家が隣どうしの女性、樋口潤子と飯田昭代が視点人物になっている。潤子は出版社の校正の仕事をしたり、村上という男性と定期的に会って、いわゆる不倫したりしている。夫の英人はイラストレーターで、最近ではパソコンを使って家で仕事をすることが多い(というか、私は今日も設定を詳しく書きすぎている?(涙))。もう1人の昭代(あきよ)は、その潤子が村上と会ってホテルに出入りするのを喫茶店から見張っていたり、潤子の跡をつけたり(最終的に帰る家は隣どうしだけれど)、以前、声を変えて彼女の夫に妻の不貞を報せる電話をしたり…ということもしているらしい。夫の博文は区役所勤めとのこと。こちらの家にはもう1人、予備校生の息子・雅哉がいる。要するに(?)昭代は性的に自由なというか、したいことをしている隣人の潤子に対して、嫉妬を感じたり、彼女がいるせいで欲求不満にさせられたりしている。そう本人も自覚している。

そんなとき、家は阿佐ヶ谷@東京にあるのだけれど、沿線で一家3人(夫婦と高校生の娘)が殺害されるという事件が起こる。昭代は、TVのニュースなどで報じられている逃走した(目撃された)人物の特徴から、息子の雅哉が犯人ではないか、という疑いをもつ。…えーと、その前に両親は、いま息子とは(男の子で年齢的なせいかもしれないけれど)距離ができている。ひとりっ子でもあるし、いままで欲しいというものはすべて買い与えてきたらしい(過保護ぎみ?)。そう、浪人生小説の定番…というほどでもないか、(受験)勉強=印籠みたいな話があるので拾っておきたい。

 <「たまには下に降りてきなさいよ」/と[昭代が]言うと、/「勉強してるんだ」/と、うるさそうな返事をかえしてくるだけだ。[雅哉は]勉強という言葉が、水戸黄門の印籠のように効き目があることを知っているのだ。>(p.152、[カッコ]は引用者補足)

で、えーと、このへんからネタバレしすぎてしまうかもしれないけれど、お母さんが本人を問い質してみると、事実、3人を殺害したことを認める。凶行のきっかけになったのは、電車内で女性(=殺害された妻というか母親というか)から痴漢に間違われたこと、らしい。推理小説を読んでいると“疑わしい浪人生”は結局のところ、真犯人ではないことが多かったりするけれど、この小説では、うーん…。あ、いや、浪人生が犯人になっている小説もあるけれど。――話を戻して、それでお母さん(&お父さん)がどう考えて、どう行動したかといえば、(息子が捕まったら)<「テレビのワイドショウなんかが押しかけてきて、私もあなたも晒しものにされるわ」/(略)/「そんなのイヤよ」>(p.194)という感じ(1浪だから未成年で、名前は世間に公表されないだろうけれど、マスコミはたくさん家にまでやって来る? 少なくともご近所にはわかってしまうか)で、このお母さんはナイス・アイディア…とはとても言えないな、旦那さんと一緒に、息子と隣の奥さん(つまり雅哉と潤子)を無理心中に見せかけて殺害――。なんていうか、いま第3者的に冷静に考えてみると、この小説、かなり悲惨なことが起こっている(汗)。ま、理由はともあれ、3人の人間を殺めている浪人生にとってはいずれにしても、自業自得かもしれない。そう、一家3人のほうが幽霊化してもおかしくない気がするけれど、登場してはこない。で、最後に登場する雅哉くんは、渋谷のハチ公前広場でたそがれていて、ある意味では“永遠の浪人生”――これも引用させてもらおうかな(引用多すぎ…、すみません)、

 <円盤の縁のような形をしたベンチに、ぼんやりと坐っている男と女がいるのに、高沢は気づいた。若者たちが発散する熱気でかき回されている広場の空気が、そこだけ冷えている。男は高校生くらいだろうか。女はずっと年上の美人だった。男と女はただ坐っているだけで、話をしようともしない。寄り添って坐っているのに、他人のように見えるのが異様だった。>(pp.224-5)

という感じ。

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関係ない話だけれど、この作者(小説家というよりは脚本家かも)が脚本を書いているTVドラマ『俺たちの旅』の小説版というか、ノベライゼーションというか、角川文庫から3冊(3巻)出ているうちの真ん中の1巻だけ、だいぶ前から探しているのだけれど、いまだに見つからない。最近あまり遠出しなくなっているのだけれど、地元のブッ●オフその他、ふつうにありそうなのになくてちょっと悔しい(汗)。というか、自分、3冊セットのうちの1冊だけ見つからないパターンがけっこう多いかも(涙)。みんな(?)そうなのかな、“古本あるある”?
 

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