『さようなら、猫』(光文社、2012.9)所収、9篇中の2篇目。本の後ろのほうを見ると、収録作の初出誌はすべて『小説宝石』で、この1篇はいちばん古くて2007年12月号らしい(いちばん新しいものは最後に収録されている表題作で、2010年7月号らしい)。猫小説はたくさんあっても、猫尽くしの短篇集は意外と珍しい?(そうでもないのかな…、読書量の少ない私にはわからない)。

街道沿いにあるカフェ兼花屋で働く野衣(のい)さんとそこのお客の中年男性の五藤さんといっしょに、予備校生の哲(カフェのお客)は、カフェに出入りしていた野良猫(白猫)を捕まえて(前夜に3人で捕まえた)、都内なのに自然に囲まれた暮らしをしていて猫も飼っているイラストレーターの家に引き受けてもらいに行く。五藤さんの車(ボルボ)で。猫はそのまま放っておくと、カフェ(何店舗かある)の社長の命令で捕獲されて保健所に引き渡されたり、猫嫌いの店員に道路に追いやられて車にひき殺されてしまったり…という可能性が。視点人物は男子な哲くんだけれど、やっぱり描かれているのは、主に女性・野衣さんの心理かな。結末はビターな感じというか。ちょっと前にたまたま読んだ吉田伸子「このネコがすごい!」(『小説すばる』2013年1月号、特集「2013年は、ネコ年とします!」)というブックガイドでは(この短篇集について)<(略)井上さんらしいスパイシーな猫本>(p.145)と書かれている。スパイシーか…。そう言われればそんな感じかも。ほのぼのした“にゃんこ小説”が読みたい人にはあまりお薦めできない本かもしれない。

哲がカフェ(男性客は少ない)に出入りしていた理由は、別れたわけではないけれど、距離ができている、先に大学生になった彼女・真実子と偶然を装って(?)会うため。このカフェは以前デート中に何度か立ち寄ったことがある。なんていうか、立場の変わり目が縁の切れ目というか、この小説の場合、よくある(?)地方と東京で離れ離れ…みたいなことにはなっていないけれど、それでも浪人生と大学生とではうまくいかなくなってしまう、みたいな…。別れを切り出して来ない不誠実な(?)彼女、大学生になって裕福な父親から車(BMW)を買い与えられている彼女(大学生はちゃりんこで十分!)――早めに別れたほうが正解?(そうでもないか)。哲くん、受かった滑り止めの3流大学は蹴って、浪人しているらしい(そういえば、この小説では「浪人(生)」という言葉は使われていない)。カフェがあるのは、<哲の自宅からは[自転車を]ゆっくり漕いで四十分の距離で、いい運動になる>(p.37)とのこと。往復で80分…、いい運動になるにしても、受験生としてはちょっと時間がもったいない気が。移動中、携帯音楽プレイヤーで英語か何かの勉強をしたほうがいいかも。あ、本人にそう言ったら<よけいなお世話だ>とか思われそうだけれど。

[追記]文庫は光文社文庫、2017.6。

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小説とは関係ない話だけれど(いままで書く機会がなかったのだけれど)、去年(2012年)の5月に家で飼っていて、自分が可愛がっていた(冬場は一緒に寝たりしていた)猫が亡くなってしまって…。ショックというか、がっかりというか、いまでもときどきそうなんだけれど、しばらくはいるはずの時間にいるはずの場所にいない、という不在感が激しくて。――体調面そのほか、去年は本当にろくな年じゃなかったです(涙)。だからといって、急に猫嫌いになったわけではないけれど、なんていうか自分、いま猫に対する興味や関心がすごく薄くなっています(うーん…)。しかも(その猫が亡くなったこととは関係なく)去年からとある事情もあって、うちでは犬を1匹飼い出して――急に猫派から犬派に変わったわけではないけれど、この犬がまたすごく可愛らしい顔をしていて(汗)。散歩は基本的に母親(60過ぎ)がしているのだけれど、自分もすることがあって、――それはそれとして、いままで「自称・猫好き」「どちらかといえば犬より猫が好き」という感じだったけれど、現在そのへん、どうでもよくなっています(汗)。
 

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