角川文庫、1991。ひと言でいって微妙な感じかな…。「ぐだぐだ」というとちょっと言いすぎかもしれないけれど。でも、人間味があって意外とほのぼのしている小説でよかった。個人的に“ほのぼの小説”が好きだから(汗)。※以下いちおうネタバレ注意です。推理小説ではないけれど。あ、広義のミステリーと言えなくもないのか。

 <名門の私立医大で、敏腕家として有名な医学部の室教授は、入試ブローカーの北斗と組んで、裏口入学工作をしているらしい。/医局員の翔子は、医局長の脇坂らと共に、密かに調べを進め、その汚れた手口を明るみに出していく。/「金」の力にのみ込まれ、入試サギに手を染めて失脚にいたる室教授、脇坂は自らの正義に目覚めて、北国の辺地医療に赴き、翔子は大学に残り学部内刷新に力を注ごうとする――。/医学業界を背景に、エリートたちの挫折と再生を、ある実話をもとに描いた迫真の長編小説。>(カバー折り返し)

ありがちなことだけれど、本文を読んで改めてこの紹介文を読むとかなりずれている(汗)。題名(タイトル)の付け方もあまりうまくない? 女性医師の翔子さんが恨み辛みを持たされた相手に対して憎悪を増幅して復讐する、みたいな内容を想像していたら、ぜんぜん違った(汗)。主人公の桐島翔子(1視点小説ではないけれど、ま、「主人公」でいいと思う)は、医学部を卒業して1年目の研修医。勤務先、研修先は母校の「富士医科大学」(有名な伝統ある私立医大)で、性格は素直で純粋、汚れていなくて少女っぽさも残していて、診察や治療などの技術を熱心に学ぶ姿勢があって先輩医師たちの話はよく聞き、実力者である室一二三(むろ・ひふみ)教授から目もかけられていて、正義感もあり、一方、家では両親、特に「桐島病院」の院長のお父さん(太郎)や、医学部志望で浪人3年目の弟・秋男のことを心配していて、要するに心優しくて――こんな男性目線での理想的な女性がいったいどこにいる? とか思ったらいけないのかやっぱり(涙)。医局についてとか、リアルに感じる部分とファンタジー(?)に感じる部分とがあって――ま、それがふつうか、小説だから。

なんていうか、権力者、実力者の室教授がもっと典型的な悪役として描かれていれば、わかりやすかったかな、この小説。わかりやすいというか、もっとクリアな感じになっていたかもしれない。医学部受験生向けの予備校(=「太平洋予備校」…大きく出たな)の理事長・北斗和夫(最後のほうで逮捕されているけれど)との会話で、「ふっふっふっ、おぬしもわるよのぉ~」みたいな場面があれば、――というか、時代劇か!(汗)。そう、読んでいて予備校の理事長が自ら動いたり(生徒宅を訪問したり)するのかな? とは思ったけれど、裏口入学代、かなりの大金だもんね…。で(?)、訪ねてきた北斗にお父さん、息子のために払ってしまっている。追加料金も、無理して工面…(汗)。他人事だからか、家の病院は、優秀なお姉ちゃんが継げばいいのに、とか思ってしまうけれど、そうはいかないのか…、やっぱり男子がいい? そう、翔子さんはお母さんから、弟と男女が逆だったらよかったのに、みたいな(『紫式部日記』的な)ことを言われている(あ、直接そう言われたわけでなかったっけか)。あと、そう、医者という職業にかぎらないかもしれないけれど、親の年齢の問題もあるのか…。翔子によれば、お父さんいまは57, 8歳くらいらしいけれど(p.38)、

 <(略)もしこれ以上、受験で手こずると、三十近くになってやっと医者の卵である。将来、内科系、外科系いずれを専攻するにせよ、卒業後最低十年の修業は、一人前の臨床医となるための、常識となっている。秋男が三十に手がとどくところで医師免許証を手に入れたのでは、桐島病院の父から秋男への継承はとても無理だ。翔子の脳裡に、七十近くになっても病院のために働かねばならない苦痛に満ちた父の顔が浮かんだ。/(今年こそ合格してほしい)/(略)>(p.168)

3浪で合格したとして21歳、大学の卒業にストレートで6年、その後10年の修業――あ、たしかに30歳近くになるね。翔子はいま24歳だっけ? 来年の3月までには25歳か。<桐島病院は第三京浜国道に近い世田谷にある。翔子が生まれるちょうど十年前、桐島太郎が独力で開設した小さな診療所が、その出発点である。>(p.35)とあるけれど、――計算が合わない? 翔子が生まれる10年前ということは34, 5年前、お父さんはそのとき(57, 8マイナス34, 5=)22~24歳くらい? 10年の修業はどうしたんだろう?(時代が違うということかな?)。いずれにしても、「ひーじいさん(physician)は内科医だ」という英単語の覚え方があるように(関係ないか(汗))、医者の跡継ぎ問題はたいへんなようだ(3代も続けば御の字?)。

お姉ちゃんが家に帰ってくると、なぜか(?)「艶歌」を聴いている弟の秋男。艶歌ってなんだけ? エレジーと同じ?(エレジーは「哀歌」か)。季節は最初、秋。――で、結局、なんだかんだで大学には落ちている。そもそも、もうあとがないだろう3浪目なのに、どうして偏差値の高い富士医大を受けたのかな、この受験生?(うーん…)。お父さんがブローカーにお金を払い込んでいることは本人は知らないのに。あ、ほかの大学も複数、受けているんだっけ?(読み直さないとわからない)。落ちたときには、自暴自棄になって、家族に対して何か言葉を吐いたらしいけれど(p.214)、その場面が描かれていない(個人的にはちょっと残念、読みたかったな…)。<家族じゅうが説得して、もう一年、予備校に通わせることにはしたのだが、はたしてその一年がもつだろうか。>(同頁)とのことで、大きな不安はあれども、4浪目に突入か。

ぜんぜん書けなかったけれど、医局長とか、看護婦や元看護婦(「女性看護士」と言ったほうがいいか)とか、もっといろいろな人が出てくる。そう、翔子の同級生で、留年を繰り返していまだに卒業できていなかった人=下田房彦、愛称ワキちゃんが自殺――したという報せがあって、翔子は同級生たちとお葬式に。性格はいいけれど、勉強ができなくて、不正入学疑惑が…。たまに見かける(耳にする)、裏口入学は入ってからがたいへんだ、みたいな話の実例(?)か。自分も大学生のとき、「この人、よく大学に入れたな」みたいな人がいたけれど、…というか、自分も人からそう思われていたかもしれないな(涙)。ちゃんと試験を受けているけれど。

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どこかに書いておかないと忘れてしまうので、ちょっとメモ。地元の図書館、古本屋で探してみたけれど、医学部裏口入学もの(?)麓昌平『鴉の骸』という小説は見つからず。浪人生は、出てくるのかな?(はっきり出てこないとわかればもうすんなり諦めるけれど)。そう、“不正入試もの”(の小説)って、前提として(背景として)大学になかなか受からないことを示すために、受験生が「浪人生」に設定されやすい? …そんなこともないか。
 

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