いちど自分のためにまとめておきたいと思っていて。でも、まとめる以前にわかっていない、というか。「四修」について。もう声を大にして言いたい、私は歴史が苦手だー(涙)。

小説、大下宇陀児「情獄」(1930)に次のような箇所がある。

<牧田君、君も無論記憶していることだろう。当時は確か、中学の四年から上の学校へ行くという制度が、まだ出来たか出来ないかの頃だったね。>

漢字が出てこないな、「確」ではなくてりっしんべんに、点が2つの「造」。手もとにあるのは、阿刀田高選/日本ペンクラブ編のアンソロジー『恐怖の話』(ランダムハウス講談社文庫、2007)。それはともかく、上のような箇所に対しては、だからそれはいつの頃だよ? とか個人的には思ってしまう(涙)。作者の大下宇陀児が一高(第一高等学校)に入学したのは何年になるんだろう? とりあえず、生年は1896年らしい。

数学者・岡潔の自伝的エッセイ集『春の草 私の生い立ち』(日経ビジネス人文庫、2010.7。親本は日本経済新聞社、1966)には、次のような箇所がある。

<私たちのころは、中学四年から高等学校へ行く制度はなく、受験勉強は五年になってからやったものです。/高等学校以外に海兵とか高商、高工への道がありましたが、そのころの学生はこれらも高等学校と対等に考え、どこでもいい、そういう学校にはいることを目標にしていたようです。/(略)>(p.130, 「入学試験で考えるのが好きに」)

岡潔が中学校を卒業して高校(三高)に入学するのは(同書には年譜も付いているけれど)、1919年(大正8年)のこと。1918年12月に(新しい)高等学校令が出されて、1919年には四修での受験が可能になったのではないか? つまり、5年生の岡潔は1つ下の学年といっしょに受験して、合格後(入学後)には四修での合格者がまわりにいたのではないか、と思うのだけれど、ーー私は何かおかしなことを言っています?(涙)。うーん、<私たちのころは>か。

まだ本になっていないのかな、たまたま持っている『新潮』2013年1月号に大澤信亮「小林秀雄」という連載の1回目が載っていて(pp.199-214)。文芸評論家の小林秀雄は、中学校卒業の年の1920年、一高を受けて落ちている。で、翌年の1921年には合格して(入学して)いる。1921年の入試は3月ーというのはいいとして、現役で受験した前年は、何月?

<(略)浪人生として放り出された晩春のある日、失意の小林を訪ねてきた母方の叔父(略)の手ほどきで、おそらくは向島玉の井の私娼街に連れ出され、十八歳で童貞を失った。(略)>(p.212)

竹内洋『学歴貴族の栄光と挫折』(手元にあるのは単行本版、中央公論新社、1999)の後ろの年表を見てみると、1921年(大正10年)4月に<高等学校学年始期4月を実施>とある(p.358)。1919年の入試は7月(岡潔のエッセイ)。1921年は3月。では、そのあいだの1920年は? うーん、7月だったのではないか、と思ってしまうのだけれど、<晩春のある日>か。3月(あるいは4月か5月)に入試があったとして、でも、9月入学(授業開始)? 私は例によってどこか勘違いしているかもしれない(涙)。ちなみにこの評伝(の初回)には、小林秀雄が四修で(1919年に)受験したかどうかについては書かれていない。

小林秀雄と同じ府立一中(現・都立日比谷高校)の高見順は、1923年(大正12年)、四修で一高を受験して落ちている(翌年の卒業の年=1924年には合格。だから「浪人」はしていない)。で、回想的な自伝小説『わが胸の底のここには』に次のような箇所がある(いま手元にあるのは『現代日本の文学 24 高見順集』学習研究社、1970)。

<四年に成るとともに教師から各自の志望の上級学校が問われた。今までは中学を卒業しなければ上級学校の入学資格が無かったのが、四年修了で受験できるように変わっていた。(略)/(略)/一高志望の私は、ーー受験までまだ二年あるつもりだったところ一年ということに成ったから、うんと勉強しなくてはならないのであった。(略)また、一年早く学校を出られるということはそれだけ母親の負担を軽くしうるということだったから、私は是非とも四年修了で一高に入らねばならぬと思い、人一倍強い虚栄心からも(略)>(p.173)

中学校(旧制)は義務教育ではない。で、この人、四修での受験が可能になった1919年に中学校に入学しているのに(しかもこの中学校は日本1の進学校なのに)、「四修」について急に聞かされた的なことを言っている。うーん、4年生になったのは、1922年4月か。

とりあえずの結論としては、1919年7月の入試から高等学校は四修での受験が可能になっている(かもしれない)けれど、実際に普及した(多くの中学生が受けるようになった)のは、1921年3月あたりからではないか、と思う。でも、うーん。。というか、そのへんのことが書かれている本がないのかな?(あ、記憶力のない自分、すでに読んでいる可能性もある(汗))。
 

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