芹澤光治良『麓の景色』
図書館本『芹澤光治良作品集1 麓の景色・きいろい地球』(新潮社、1974.3)で読んだ。3篇収録されているうちの最初の1篇。初出についてはこの巻には記載はない。とりあえずネットで調べてみると、同名の単行本が1955年12月に角川書店から出ているようだ(「角川小説新書」の1冊らしい)。昭和30年、古いといえば古いよね。※以下、いちおうネタバレ注意です。
文章自体は読みやすかったけど、なんだろう、個人的にはもう少しユーモアがあればいいのになぁ、とか思った。大衆文学のような、そうでもないような(なんとなく代わりに何か遠藤周作の小説が読みたくなってきた)。
戦後10年くらい? 1視点小説ではないけど、主人公は石丸はつ子。で、若い女性の人生における選択というか、生き方というかが描かれている小説かな。冒頭から親がお見合い結婚を勧めてくるんだけど(ベタな感じ?)、本人は相手のことをよく知ってからでないと、みたいな当時の女性としては新しい(?)考えを持っている。なんだろう、あと戦前からヴァイオリンを習っていて、いまも音楽教室を手伝いながら(先生が見る前に「下見」をする仕事をしながら)習っているんだけど、新しい大衆音楽であるジャズを勧めてくる友人(というか。富子)がいてーーでも、結局、悩みながらも自分を変えていないというか、自分を通している感じかな。うーん...。最後、終わり方というかは、主人公のはつ子さんはいいけど、ジャズシンガーの富子さんがちょっと可哀想に思った(小並感?)。全体的に悪い人が出てこない小説だとは思ったけど、ただ、元一高生で、東大も出ているらしい林和夫はなぁ...。
そういえば、タイトルがほとんど関係なかったかな。お母さんの実家が富士山の麓(というか)らしい。晩秋から始まっていて、結局、季節はひと巡りしていた感じ。で、書いておかないといけないのは、弟の一男が東大(理学部)を受けて落ちている。家が経済的に苦しいので(お父さんは高校教師で、夜間学校でも教えているらしいんだけど、そんなに経済的に厳しいのかな?)、就職しようと考えていたところ、姉の婚約者というかの安田進太郎(東大工学部の院生)に会って、結局、両親を説得してもらう形になって、浪人ができることに。翌年は、新聞配達をしながら予備校にも通っていて、受験準備。ただ、残念ながら(?)翌年の合否までは話が進んでいない。きょうだいにはあと妹(シナ子)がいる。あ、少し引用させてもらうと、
<一男は入学試験に落第して、はじめて春でないような悲しい春を迎えた。突然に東京に原爆でもおちて、世の中がひっくりかえってくれたらよいがと、ぼんやり空を仰ぐ日があった。/ただ思いがけなく安田のとりなしで、父や母が来年度も受験することをゆるしたから、悲しみのうちにも、仄かな希望を持った。しかし、(略)>(p.106、第11章の冒頭。全12章)
という感じ。一男視点の箇所。原爆を持ち出すのはちょっと不謹慎な感じもするけど、浪人が決まった受験生の心理というか。
ちなみに、読まずに本はもう返却してしまったけど、3篇目に収録されている『産れた土地』でも、主人公が1年浪人しているっぽかった。旧制一高受験生。上京して予備校に。こちらのほうが古い作品のようなので(?)、ちゃんと読んだほうがよかったかも。ネットで検索すると、単行本は1942年に日本文林社というところから出ているようだ。昭和30年代くらいまでに(1965年よりも前に)書かれた“浪人生小説”も探せばもっとあるのかな...。
~・~・~・~・~・~・~・~
(積ん読本・追加)
・浦賀和宏『荻原重化学工業連続殺人事件』講談社ノベルス。
・垣根涼介『ヒート アイランド』文春文庫。誰かの兄が大学不合格?
・東野圭吾『宿命』講談社文庫。
・東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』角川文庫。
・宮部みゆき「鳩笛草」同名書、光文社文庫。
・宮部みゆき『クロスファイア』上下、光文社文庫。?
・原田康子『恋人たち』新潮文庫。掌篇集。出ては来ないと思うけど、少なくとも3篇に。
・横溝正史「本陣殺人事件」同名書、角川文庫。
図書館本『芹澤光治良作品集1 麓の景色・きいろい地球』(新潮社、1974.3)で読んだ。3篇収録されているうちの最初の1篇。初出についてはこの巻には記載はない。とりあえずネットで調べてみると、同名の単行本が1955年12月に角川書店から出ているようだ(「角川小説新書」の1冊らしい)。昭和30年、古いといえば古いよね。※以下、いちおうネタバレ注意です。
文章自体は読みやすかったけど、なんだろう、個人的にはもう少しユーモアがあればいいのになぁ、とか思った。大衆文学のような、そうでもないような(なんとなく代わりに何か遠藤周作の小説が読みたくなってきた)。
戦後10年くらい? 1視点小説ではないけど、主人公は石丸はつ子。で、若い女性の人生における選択というか、生き方というかが描かれている小説かな。冒頭から親がお見合い結婚を勧めてくるんだけど(ベタな感じ?)、本人は相手のことをよく知ってからでないと、みたいな当時の女性としては新しい(?)考えを持っている。なんだろう、あと戦前からヴァイオリンを習っていて、いまも音楽教室を手伝いながら(先生が見る前に「下見」をする仕事をしながら)習っているんだけど、新しい大衆音楽であるジャズを勧めてくる友人(というか。富子)がいてーーでも、結局、悩みながらも自分を変えていないというか、自分を通している感じかな。うーん...。最後、終わり方というかは、主人公のはつ子さんはいいけど、ジャズシンガーの富子さんがちょっと可哀想に思った(小並感?)。全体的に悪い人が出てこない小説だとは思ったけど、ただ、元一高生で、東大も出ているらしい林和夫はなぁ...。
そういえば、タイトルがほとんど関係なかったかな。お母さんの実家が富士山の麓(というか)らしい。晩秋から始まっていて、結局、季節はひと巡りしていた感じ。で、書いておかないといけないのは、弟の一男が東大(理学部)を受けて落ちている。家が経済的に苦しいので(お父さんは高校教師で、夜間学校でも教えているらしいんだけど、そんなに経済的に厳しいのかな?)、就職しようと考えていたところ、姉の婚約者というかの安田進太郎(東大工学部の院生)に会って、結局、両親を説得してもらう形になって、浪人ができることに。翌年は、新聞配達をしながら予備校にも通っていて、受験準備。ただ、残念ながら(?)翌年の合否までは話が進んでいない。きょうだいにはあと妹(シナ子)がいる。あ、少し引用させてもらうと、
<一男は入学試験に落第して、はじめて春でないような悲しい春を迎えた。突然に東京に原爆でもおちて、世の中がひっくりかえってくれたらよいがと、ぼんやり空を仰ぐ日があった。/ただ思いがけなく安田のとりなしで、父や母が来年度も受験することをゆるしたから、悲しみのうちにも、仄かな希望を持った。しかし、(略)>(p.106、第11章の冒頭。全12章)
という感じ。一男視点の箇所。原爆を持ち出すのはちょっと不謹慎な感じもするけど、浪人が決まった受験生の心理というか。
ちなみに、読まずに本はもう返却してしまったけど、3篇目に収録されている『産れた土地』でも、主人公が1年浪人しているっぽかった。旧制一高受験生。上京して予備校に。こちらのほうが古い作品のようなので(?)、ちゃんと読んだほうがよかったかも。ネットで検索すると、単行本は1942年に日本文林社というところから出ているようだ。昭和30年代くらいまでに(1965年よりも前に)書かれた“浪人生小説”も探せばもっとあるのかな...。
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(積ん読本・追加)
・浦賀和宏『荻原重化学工業連続殺人事件』講談社ノベルス。
・垣根涼介『ヒート アイランド』文春文庫。誰かの兄が大学不合格?
・東野圭吾『宿命』講談社文庫。
・東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』角川文庫。
・宮部みゆき「鳩笛草」同名書、光文社文庫。
・宮部みゆき『クロスファイア』上下、光文社文庫。?
・原田康子『恋人たち』新潮文庫。掌篇集。出ては来ないと思うけど、少なくとも3篇に。
・横溝正史「本陣殺人事件」同名書、角川文庫。
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